クリエイターは、SNSのダークサイドに堕ちないで欲しい。という勝手な希望。

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Text by 塩谷舞(@ciotan)[PR]

 

ある日、こんなメールが届きました。

“学生クリエイターに向けて、インターネットを使った「発信方法」や「魅せ方」を教えてもらえないでしょうか?” と。

私はインターネットを使って何かを広める……という仕事をしているので、こんなご依頼をいただくことが度々ある。もちろん、頼られること自体は、すごく嬉しいんです。

でも相手が学生さんだったりすると、「あぁ、ちょっと嫌だなぁ」と、複雑な気持ちになってしまう。

「フォロワーを増やすハウツー」なら知ってるし、それを伝授すれば、わかりやすく増えます。

けれども、一体なんのために、フォロワーを増やすのか? その軸がないのにテクニックで増やしても、中身は空っぽだし、長続きしない。

もしくは、数字を増やすことに躍起になって、SNSに張り付いてばかりいると、視野がどんどん、どんどん狭くなってしまうリスクもある。取るに足らないネタばかり拡散されても、残念ながら、あんまり世界は変わらない。

たとえば、楽しかった飲み会後に私がふとつぶやいた、取るに足らない投稿が1万リツイートされたのですが……

このツイートを投稿するやいなや

「この人は関西人のことを何も知らないのではないか」
「こんな飲み会見たことないわ。関西人に幻想抱きすぎだろ」

「これだから関西人は嫌いだ」
「関西に帰りたい!関西最高!」

「飲み会とはそういうものじゃないのか?何を言ってるんだコイツは」
「ウワベ付き合いで1日のほとんどを過ごすのが関西人」

だなんてリプライが数え切れないほど来て、1週間ほど昼夜鳴り止まなかった。Twitterを見るたびに、関西人が好き、関西人が嫌い、関西人最高、関西人最低、という意見が飛び込んでくる。まぁ自分で蒔いた種ではあるけれども、関西人文化論について研究しているわけでもないので、少し食傷気味になってしまう。

通知が多すぎるからと元のツイートを消したりすると「なんで消したんですか?意見が間違っていたんですか?編集長なのに?」と怒られたりもするので、消すのも消すので面倒だったりするのです。

(ちなみに私は大阪生まれなので、「関西人を知らない」と言われる前に自分が関西人なんだけど…プロフィールにも大阪生まれだと書いてあるんだけど……)


私は時に「インフルエンサー」として取材されることもあるけれども、日々こんなリプライを受け続けているのがインフルエンサーの現実だとすると、若いクリエイターにはオススメしない。

あまりにもノイズが多い。そして視野が狭くなる。1分考えてツイートして、1秒で反響が来る世界に慣れてしまうと、長期的なものづくりがどんどん苦手になってしまう。フォロワーの声に耳を傾けるほどに、自分の作りたいものではなく、フォロワーの求めるものにどんどん偏っていってしまう。

もちろんSNSの良い面は数え切れないほどにある。私はその恩恵を受けまくっている。最高の出会いもあったし、仕事の99%……いや100%は、SNSのおかげでいただいている。ただ、SNSの旨味だけを教えるのは、良い役割だとは思えないなぁ……と。

SNSは、使い方によっては、大きく豊かに伸びる才能を潰しかねないから。

 

そんな気持ちを巡らせながら、依頼主の送ってくれたURLを見てみたわけです。

“才能を持った人に「いいもの」を作って欲しい”

というストレートなキャッチコピーがドカンと入ってくる。


これは「クマ財団」
という学生クリエイターに向けた奨学金制度で、毎月10万円が1年間、50名の学生に付与される、というもの。返済義務はナシ(!)だそう。

つまり1年で合計6,000万円を学生支援のために使っているのだけれども、イマドキどなたがそんな太っ腹なことを…??? と思ったら、設立されたのは馬場功淳さん。ゲーム会社の「株式会社コロプラ」の社長である馬場さんが、個人資本100%で設立された財団なのだそう。


「つまり……イラストレーターやエンジニアを発掘して、自社採用に繋げてるのでは…??」

 

…という歪んだ心で対象クリエイターを見てみると、建築家、小説家、工芸作家、ファッションデザイナー、メディアアーティスト、画家、そして昆虫食を推進する青年まで……

あまりにも幅が広いし、かつコロプラさんのビジネス領域とは関連性が薄くて、少なくとも採用目的ではなさそうな……。

 

倍率54.8倍をくぐり抜けた学生クリエイターたち

聞けばこのクマ財団、2,740名もの応募があったそうで、倍率は54.8倍。東京藝大のデザイン科や絵画科でも倍率は20倍以下だと思うと、とんでもない競争率!!(もちろん同じ物差しでは測りにくいのですが…)

私がSNSの使い方を教える以前に、どんな学生クリエイターたちがこの難関を突破したんだろう? と奨学生たちのサイトをチラチラと拝見したら……

 

 

あああああ! かゆいところに手が届いてなさすぎる!!!

 

作品に辿り着くまでが長すぎる。せっかく面白そうなことをしているらしいのに、説明動画が単調すぎる。これは最低限やるべきことをやるだけで、かなり彼ら、彼女らの景色が変わるかもしれないぞ……。

ということで、8月17日。クマ財団の合宿場である「コロニー箱根」にやって来たのです。

 

コロニー箱根がまぶしすぎる

がっつり本題からずれるのですが、到着してびっくり。ここ、部屋がすごすぎる……。

なにこれ…

仕事で来たのに……

部屋のベランダからの風景よ……(翌日仕事があったので日帰りです!!!涙)。

この「コロニー箱根」はコロプラさんの研修施設らしく、日頃は社員さんが開発合宿に使われていたり、社員の親族なら特別価格で利用できたりするそうです。なにそれ結婚したい…

ロビーも素敵……

 

さて、本題に戻りまして。
そこに合宿に来た、50名の奨学生たち。全国各地から大集合。

 

 

 

内気な子もいるし、派手な子もいるし、地味な子もいるし、明るい子もいる。

見た目も中身もバラバラなんだろうけど、その話の中に入ってみてビックリ。
「私はこれを作っています」と、自信を持って自己紹介できる子たちばかりだった。

 

そして、この日のゲストトークは3本立て。まずは東京都現代美術館の学芸員・森山朋絵さんが、メディアアートや学芸員の仕事にまつわるお話をされていました。

私の大好きな展覧会をいくつも企画されている、尊敬する学芸員さん。現在の物事を、歴史的な軸で捉えてお話されていくのですが、それは現象を文化として伝えて残していくには欠かせないこと。

そして私の後には、現役美大生でアパレル社長でもあるハヤカワ五味ちゃん、21歳。

クマ財団の奨学生には五味ちゃんよりも歳上の参加者もいるし、彼女自身、「私が前で話すのはおかしい」と何度も恐縮していたんですね。

でも、彼女は自分の力で、会社を立ち上げて、アイデアを出し、工場と交渉し、商品をお客様に届けて、何度も改善して、様々な会社にインターンとして潜り込み、自社で社員を雇い、SNSで自身の発信力を身につけ、商品を売っては意見をもらって改善し……。

悩んでるし、努力してるし、その上で結果を出してる21歳の美大生。その言葉にはリアリティがあったなぁ。

「こうすれば視野が広がるよ」「このマーケットはニーズがあるよ」だなんて大人に強制されても、なんだか乗り気にならないけれども。同年代の彼女から、あらゆる物事の良さや弱点、事業をやってきた苦労なんかを聞かされると、やらない理由を探しているのが恥ずかしくなりそうです。

 

メディア・SNSと上手に付き合う方法

ここで私は、メディアやSNSと上手に付き合う方法をお話させてもらいました。


他にもたくさんあるのですが、話したことを一部、箇条書きでまとめておきますね。ただ、一番大事なことを最後に書いてあるので、そこもあわせてご覧ください。

 

    • 現代のメディアに名前がよく出ているクリエイターは、大なり小なり、実はしっかり自己PRをしています。「自己PRとかダサい」と思わずに、しっかり自分の情報を伝えていきましょう。
    • ネットメディアはたくさんの種類があります。たとえば個展を開催する時には、闇雲に、たくさんのメディアに情報を送りつけるのではなく、「自分の作品と相性が良い!」と思うメディアだけに、丁寧にプレスリリースを送りましょう。
    • 「自分自身でPRするのはちょっと気が引ける…」と思う方は、架空のアシスタントを作ってもいいかもしれません。金額交渉、条件交渉、マネジメントを作家名とは別名義のメルアドからやっている作家さんも、実際にいます。
  •  
    • すでにネットで情報解禁されているものは、メディアはあまり取り上げてくれません。公開前の情報をPDFや限定公開サイトなどで共有して、「○月○日に告知するものです」と、情報解禁の3日前くらいに問い合わせましょう。ニュースを書く側が困らないように、画像やインフォメーションもまとめておきましょう。
    • たとえばグループ展であなたの作品を発見した編集者や購入希望者が、ネットで名前をどれだけ検索しても、あなたの情報にたどり着けなくて諦めている…という場合があります。

      自分の作家名で検索して、自分の作品情報にたどり着けるか?同姓同名の著名人がいて、その人に負けていないか? さらに、問い合わせ先が明記してあって、メールがエラーにならないか?あらためて確認してみましょう。

    • 作家名で検索して出てきたTwitterに、メンヘラツイートばかりが並んでいると、仕事を依頼する側は二の足を踏んでしまいます。メンヘラが駄目とは言いませんが、表に見えるツイートは、依頼主が見ても困らないものにしておきましょう。
    • 地方在住の場合、プロフィールに「東京 / 大阪」などと二拠点生活風に記載しておくと、東京からの仕事が入りやすかったりします。コンタクトする前に「地方在住だから、出張費も出ないし、諦めよう…」と二の足を踏んでしまってる可能性があります。
    • 大学のクラス内だけで勝負しないようにしましょう。もっと広い世界にライバルを作ったほうがいいです。グループ展に参加するのは良いけれど、そこに参加したみんなが「楽しかった、来年もやろう」と思っているのか?それとも「ここが悔しかったから、次はこうしよう」と思っているのか?

      前者の場合、何年たってもグループ全員のレベルが上がらずに、ぬるま湯でお互いの足を引っ張り合う存在になりかねない。もちろん楽しくやるなら前者でもいいけど、突き抜けたいんだったら、自分に刺激を与えてくれる人たちと一緒にやったほうがいいです。

…と色々細々したことを書いたけれども。

作品がずば抜けて素晴らしければ、ネットで名前が出てこなくても、メンヘラツイートが多くても、どんな辺境に住んでいても、あなたの作品を見つけ出してくれる人はいるはずです。作品が、ずば抜けて素晴らしければ。

まずは作品ありき。ただ、どんな小さな隙間に、出会いが転がっているかはわかりません。インターネットをちゃんと使えば、「機会損失」を限りなくゼロに近づけることはできるんじゃないかなぁ……だなんてことをお話しました。


この日のプログラムが終わり、夜は交流会に。コロプラ代表の馬場さんもずっと一緒にいて、学生たちと楽しそうにお話されています。

「こんな作品を創ってるんですけど…」と、次々相談がくるんだけれども、みんなあらゆる方向に可能性がある。そして、創っているものが面白いから、相談され甲斐があって、めちゃくちゃ楽しい!!!

 

「私、折り紙をやっていて…」と見せてくれた立野光梨さんの作品が、折り紙というレベルではなかった。

他にも紹介したい子はたっくさんいたけど、なんせ50人もいるので、また随時Twitterなどで紹介していきたいな。

 

 

年間120万がもらえる、クマ財団の奨学生。羨ましい。妬ましいほどに、羨ましい。

でも、一番羨ましいのは、自分の住んでる地域を超えて、活動フィールドを超えて、こんな良い仲間に出会わせてもらえる、ということですね。

もちろん、選考に漏れた中にも、素晴らしいクリエイターがいたかもしれません。ここの奨学生になる以外にも、いろんな方法はあるんだと思います。仲間を創ることだけが正義ではないし、クマ財団も、数多あるきっかけの中の1つだとは思います。

でも、美術家、エンジニア、ミュージシャン……とジャンルを分けたクリエイターを支援する財団が多い中で、この混沌とした集まりにはとても可能性を感じました。

以前真鍋大度さんに取材したときに、「最近はメディアアーティストがスタートアップを立ち上げたり、GoogleやAppleで働くケースもある」と話されていたけれども。近しい属性のクリエイターだけで集まっていては、時代の変化に気づきにくくなるのでは…と思います。

 

私は次の日朝から仕事があったので、終電で東京に戻ったのですが…こんなに後ろ髪引かれる交流会はなかった。もっともっと話を聞きたかったし、作品を見たかったし、話をしたかった。(日頃は飲み会なんて、だいたい真っ先に帰っているのに!)

 


冒頭にさんざん懸念していた、SNSのダークサイド。これは、自分の軸がしっかりある人にとっては、ただの杞憂だな、とも思いました。自分自身が、SNSに喰われてしまわなければ大丈夫。毒ではなく、武器として使いこなせる。

私は、自分より圧倒的にすごいものを創る人が心底好きで、尊敬していて。だから自分は「広める」役割の仕事をしようと、こうしてメディアを運営したり、SNSを使い尽くしたりしています。

そんな場外からのエールでとても恐縮なんだけれども。すごいものを創る人たちは、どうか野心を強く持って、まだ見ぬような素晴らしい作品を作って。そして、もし「傑作ができた!」と思ったら、良ければ、ぜひ教えて欲しいです。

私は素晴らしい作品を、インターネットの先にいる素晴らしい相手に届けることが大好きなので。


Text by 塩谷舞(@ciotan
Photo by 三浦希衣子
※部屋内の写真は塩谷による撮影
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