Young is King.最前線のプランナーたちが集まるコンテンツスタジオ、CHOCOLATE
2019.02.5
——御社ではこれから、どんな広告を作っていくんでしょう?
「いや、もう僕らは脱広告していこうと思っているんです」
私がSkype越しにインタビューしていた相手は、とある広告クリエイターだった。それも「バズマシーン」の異名を持ち、超高打率で広告をバズらせてきた——…と書けば、同業の人は「あぁ、彼か」とわかるだろう。
栗林和明、1987年生まれ。新卒で博報堂に入社し、「忍者高校生」や「#猫バンバン」、縦型MV「RUN and RUN」などのバズコンテンツを手がけ、国内外のアワードで掲げたトロフィーは数え切れない。2017年にはアメリカの業界紙AdAgeにて「40 under 40(世界で活躍する40歳以下の40人)」にも選抜された、31歳。
私は彼に会ったこともなかったし、SNS上で喋ったことすらなかった。けど「コイツはすごい!と思う若手広告クリエイターは誰ですか?」と広告業界の人に尋ねるたびに、彼の名前はよく出てきたから、気になってインタビュー記事やTwitterはよく見ていた。
そんな中、ふとこんなツイートが流れてきた。
もう今すぐにでも声を大にして発表したい最高な方々のジョインが続々決まっています発表もうじきご期待あれ
— 栗林和明 (@kri1226) January 16, 2019
彼は2017年に仲間たちとCHOCOLATEという会社を立ち上げ、「6秒商店」などの企画は既にめちゃくちゃ話題になっている。
魔法の力に見えるワイヤレス充電器をつくりました #6秒商店 pic.twitter.com/JhVxLd2B0W
— 6secShop/6秒商店 (@6sec_shop) September 28, 2018
このCHOCOLATEに「声を大にして発表したい最高な方々」が参加するという……ってそれは誰なんだ! あまりにも気になりすぎてしかたなかったので、会ったこともない……というかリプライすらしたこともなかったけど、勢い余って「取材させてください!」とDMした。
快くリリース前の情報を送ってもらったのだが、そこにリスト化された人たちの名前を見て仰天した。ずらりと並ぶのは、あたらしい時代を作るプレイヤーたちだ。
左上から順に、
栗林和明(@kri1226)、氏田雄介(@ujiqn)森翔太(@ShotaM0ri)、渡辺資(@TasukuWatanabe)、與座ひかる(@HikaruYoza)、あさぎーにょ(@asagi_ch)、黒木佑樹(@kurogi0519)、陳暁夏代(@chinshonatsuyo)、富永敬(@tomik0925)、竹林亮、谷川瑛一(@tanigawaa1)、夏生さえり(@N908Sa)、保坂夏汀(@natsum_i_hosaka)、島村ビギ(@Murabit_)、カイジエンド(@XXX_T_END)、大澤創太(@coppeqn)……といった顔ぶれ。映像、デザイン、マーケティング、音楽、etc…と、得意領域は多種多様。
まず驚いたのは、時代を彩るインフルエンサーたちの参画だ。
InstagramやYouTube、あらゆるSNSを踊るように使いながら「へんてこポップ」な世界観を創り上げ、そのクリエイション力と人間力で多くのコアファンを持つあさぎーにょさん。
感動だぁ…
スクランブル交差点で、
私の作った #ポッキー何本分体操 が
流れておりゃす…!!渋谷の街に流れるっていう
感動はしびれたぁぁ😭興奮した!!!!#シェアハピ #ポッキーの日 pic.twitter.com/9HHTr4SICD
— あさぎーにょ (@asagi_ch) November 11, 2018
企業コラボであっても彼女の世界観は色褪せることなく……というか、むしろ企業が「あさぎーにょさんのカラーで!」とコラボ依頼をするからこそ、彼女もファンも嬉しいコラボ動画を次々と実現している。
自分の選択肢を大切にしたいから、と芸能事務所にも所属していなかった彼女。そんな彼女がチームに入るというのだから衝撃だ。
そして超売れっ子ライターのさえりさん。
サッと作った物を、偉いおじさんに「才能あるよ!」と褒められて、咄嗟に「才能ないです笑 これも大したことないです」と言ったら「自分にとっては普通のことも、他人にとっては価値がある。才能を見つけるのは他人。自分の才能や価値を、自分で決めないこと」と言われた。あの言葉ずっと覚えてるな。
— 夏生さえり(さえりさん) (@N908Sa) December 27, 2018
私とは職種も年齢も近しいからよく情報共有……という名のただのチャットをするのだが、先日「一人でもやっていけるのに、どうして入社することにしたの?」と聞いたら、「CHOCOLATEには一緒に働きたい人たちがいたし、個人でやっていくのは限界を感じたから……中はめっちゃ楽しいですよ!」と言っていた。正直、すごく羨ましい。
フリーランスではたらくのは気楽だし、しっかり軌道に乗れば会社員よりもずっと稼げる。フォロワーが14万人もいて、著書も多数出し、オファーも耐えない彼女は間違いなく一人でもやっていける。やっていけるのに、それでも「一緒に働きたい人がいるからチームに入る」だなんて、なんと理想的なんだろう。
お会いしたことはないけれども、陳暁夏代(ちんしょうなつよ)さんの参加も衝撃的だ。
内モンゴル自治区で生まれ、上海で育ち、幼少期から日本と中国を行き来していたという彼女。表層的ではない中国の動向をキャッチし日本に伝えてくれる貴重な存在だが、中国でのDolce&Gabbana事件を鮮やかに解説したことも記憶に新しい。
https://twitter.com/chinshonatsuyo/status/1065468618081587200?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1065468618081587200&ref_url=https%3A%2F%2Ftogetter.com%2Fli%2F1290945
設立初期から携わっていたプランナーの氏くん(うじくん)の企画力の高さは、それを知る人も多いだろう。
『意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』シリーズや『あたりまえポエム』など、Twitterを起点にあらゆる人が参戦するフォーマット型作品を生み出している。
そしてクリエイティブレーベルEPOCHで映像監督をしていた竹林さんや、博報堂で栗林さんらと働いていたアートディレクターの谷川さん、プランナーの冨永さん、テレビ出身の番組ディレクター渡辺資さん、奇才の映像作家である森翔太さん、ヒット記事を連発するライター與座さん……と、大きな船から小さな船から、あらゆる実力者たちが続々とCHOCOLATEに集まってきたのだ。
CHOCOLATEではインフルエンサーもクリエイターも「プランナー / ○○」という肩書だ。こうしたプランナーの面々は、必要あらば業務委託という形で、フリーランスとしての活動も同時並行していく。
がっつり正社員として囲い込むのではないギルド型の雇用形態は、実力主義のクリエイティブ業界で主流になりつつある。一人ひとりがフリーランスのプレイヤーとしても通用するけれども、チームを組むとより強い。そんな人達だから成立するのが、ギルド型組織だ。
やっとnote始めました!そしていきなり、ヘビーなご報告です!
ブルーパドルの社員を全員フリーランスにして、ギルド化します!別に倒産するとかではなくて、新しいコミュニティの形を考えていったら、こういう結論になりました。
— 佐藤ねじ / ブルーパドル (@sato_nezi) January 3, 2019
面白法人カヤックから独立した佐藤ねじさんが率いるブルーパドル、PARTY NYとdot by dot、そしてココノエなどの名だたるクリエイティブプロダクションが統合して生まれたwhatever、NIKE LABなどの広告をずば抜けたクリエイティブで手がけるCEKAI、UI/UXデザイナーの深津貴之さんが率いるTHE GUILD……いずれも「個としても闘えるクリエイターたちのハブ」となるような組織形態だ。
さて、冒頭の話に戻ろう。
これだけ広告やマーケティングを軸に活躍してきた話題のクリエイターたちがCHOCOLATE集まりながらも、「脱広告していく」という言葉の裏には、どんなビジョンがあるのだろう? 栗林さんに話を聞いた。
もう「広告」では世の中を動かせない
——脱広告する、というのはどうしてでしょう? 現状、広告案件もかなりたくさん相談されていると思うのですが。
栗林:もう「広告」では世の中を動かせていないことを痛感してしまったんです。何百万、何億とバズっても、それを売上に繋げたり、本当に人の行動を促したりするのは至難の業です。
——あぁ、それはなんとなくわかります……。
今は、打ち上げ花火として広告をバズらせるよりも、企業のコンセプトから経営者と並走して創り上げたり、地道なUXの改善を繰り返すことでプロダクトの価値を高めたりすることが重要だな、と思います。そして、野心ある若者は、広告よりも事業そのものを作ることに憧れを抱いている。
栗林:そうなんですよね。だから今の時代にクリエイターが本当に世の中を動かすには、事業の根本に介入するか、本気でコンテンツを作るしかない。そこで、僕たちは後者だと思ったんです。
——具体的にはどんなものを?
栗林:YouTubeチャンネルをベースとした番組作りや、アニメ、映画、漫画、空間……ジャンルを超えて様々なものを作る予定です。既に手がけているものとしては、雑貨やボードゲームがありますが。
——「6秒商店」の! 動画で商品のアイデアを発表して、バズったら商品化する……というやつですよね。面白いなぁ〜と思いつつ、アイデアだけ先に出してしまったら、パクられたりもするのでは?
栗林:めちゃめちゃすごい勢いで類似品は生まれていますね……。魔法陣充電器は、中国で類似品が沢山販売されています。もどかしい気持ちもありますね(笑)。
魔法の力に見えるワイヤレス充電器をつくりました #6秒商店 pic.twitter.com/JhVxLd2B0W
— 6secShop/6秒商店 (@6sec_shop) September 28, 2018
多くの業者は独自に作って売ってるのですが、「ウチで商品化したからオフィシャルライセンスを結ばないか?」と連絡してくる会社もありました。でも既に日本に輸入されてて、YouTuberもその商品を紹介したりして、めっちゃ売れてましたね(汗)。
——クラウドファンディングでも、アイデアを出したそばから資本力のある企業に真似される……という事例もありますもんね。SNS時代は過程を見せていくことがファンがづくりの要だ……と言われることも多いですが、アイデアの盗用問題は深刻ですね。
栗林:はい。だから今回の反省として、「これは話題になるな」というものはバズる前から作ることにしました(笑)。
とはいえ、製品化する前にアイデアをSNSに出すメリットも多いです。RTやコメント数などで売上が予測出来ますし、いろんな人が商品化に参加したいと言ってくれる。「6秒商店」のTwitterフォロワーも10万人まで増えました。
——もはや1つのブランドになってるんですね。6秒商店はTwitterの超短尺動画ですが、YouTubeではまた別のことを企画するんですよね。
栗林:はい。次の時代のテレビ局は、VOD(ビデオ・オン・デマンド)の成長を筆頭に、YouTubeなどをベースにしてファンが増え、そのアドセンス収入を制作源として番組を作っていくと思うんです。今はYouTubeアカウントの立ち上げをしている真っ最中ですね。
——楽しみです!……が、YouTubeでしっかり再生回数を増やすためには、既に再生されている動画の「関連動画」に出ていかなきゃ伸びないですよね。だからどのYouTuberさんも、みんな似たような企画のコンテンツを作ってしまって、多様性というよりも、やや没個性化しつつある気もしていて……。
栗林:そこは大きな課題なんですよね。僕らの強みは企画なので、画一化したフォーマットにアイデアを注入して、まだないものに挑戦していきたい。と同時にUUUMとも業務提携することになったので、UUUM所属のクリエイターと共にオリジナルチャンネルを作り、企画力でより話題を生む動画を作っていきたいな、と。
年功序列ではない。Young is King.という考え方
——栗林さんたちのフィールドでは、若者のトレンドをキャッチしていくことがかなり重要だと思うのですが、とはいえご自身も年を重ねていく訳じゃないですか。今はまだ20代の子たちと友達感覚で接することが出来ても……これから40代、50代になっていったとき、どのように働いていると思いますか?
栗林:僕らはYoung is King.という考え方をしてるんです。
——Young is King!
栗林:はい。若い人が何よりすごいし、牽引していくべきだな、って。
——確かに、10歳年下の子たちはインターネットの接し方も、消費体験も、まったく違う景色を見て育っていますよね。その世代の意見を聞くべきシーンでも、年功序列型の社会だと、「20代は下っ端」として意見を出すことも許されなかったりしちゃう。
栗林:とにかく上下関係をなくして、年代を横断してフラットにアイデアを考えられる組織にしたいんです。
それに、その人の価値は、年齢じゃなくて付加価値の高さで決まってきますよね。
——年齢を重ねると謎にお給料も上がりますもんね。私、かつて大学で授業を受け持ったときに「謝礼は年齢に比例しているので、20代の講師の場合は薄謝になってしまって、すみません……」と言われたことがあったのですが……インターネットのことを伝える授業は、20代じゃなきゃ伝えられないこともあるのでは?って疑問に思いました(笑)。
栗林:そうですよね。むしろ小・中学生を招いて、フラットにアイデアを出しまくる会とかもやっています。でも逆に、発想が若ければ年齢は関係ないと思います。
かつ、やっぱり歳を重ねるごとに蓄積されるノウハウやネットワーク、資金力みたいなものはあるとは思うので……そういうものを通じて、若いコンテンツプランナーの才能を発掘しまくっていきたいですね。
才能あるプランナーたちを徹底サポート
——既に才能あるプランナーたちが集まってますけど、彼ら彼女らをどうやって口説いたんでしょう? 各所からオファーがありつつもそれを断って、一人でやってきていた人たちも多いと思うんです。
栗林:「CHOCOLATEには”成長”と”刺激”があるし、次のステージに行くためのサポートは徹底的にしたい。そして、見たこともないような心が疼くコンテンツを一緒に作りたい」と伝えました。
やっぱり、話を聞いてみると、生活のために引き受けてる広告案件があったりして。それでつまらない仕事になっちゃうんだったら、それを一切やめてもらって、より作りたいコンテンツを作ることに集中したほうがいいんじゃないか、って。
だからCHOCOLATEに所属してもらうことで、十分満足に生活できるだけの固定収入を出させてもらって、その上で本当にやりたい仕事だけを自由に受けていくのが良いかなと。
——それは理想的ですね。
栗林:かつ、異分野のプランナーたちが集まっているというのも大きいですね。企画会議に入ってもらうだけで、脳がハッと開いていく。大型案件ではかなりの制作費を使うこともあるので、大きなスケールのものを作ることも出来ます。
——あぁ、いいなぁ……。インフルエンサーも、個人の限界で頭打ちをしていることが多いなぁ、と感じます。そこが突破できるのは本当に大きい。
SNS時代「大企業だから出来ること」は、ほぼない
——栗林さんは広告代理店出身ですが、辞めてから「大企業だから出来たこと」みたいな部分を実感したりしますか?
栗林:いや……プランナーという立場では、ほぼないですね。数年前までは、クライアントネットワークがあったり、社内の優秀なクリエイターとすぐに打ち合わせ出来たり……という大手代理店の利点は大きかったと思います。でも今は、繋がろうと思えばどこからでも繋がれる時代だし、フリーランスクリエイターが増えたので、チームも自由に作れるようになりました。だから、小さな組織でも不自由がないんです。
——SNS時代、連絡先なんていくらでもわかっちゃいますもんね。
栗林:ですです。それに小さな組織だと、圧倒的に楽しいことに注力できる。大きなクライアントワークだと、どうしても事情に事情を重ねて前に進んでいかなきゃいけないこともあります。もちろん、事情を超えてこそ生まれる特大スケールなプロジェクトももちろん痛感していますが……そうして「事情」に挟まれて失う時間が、死ぬほどもったいない。
今は会議をしてても、自社事業を立ち上げてるときも、めちゃくちゃ楽しいんですよ。今度合宿に行くのですが、みんなでアイデアを出している時間はめちゃくちゃ楽しい。
——楽しそうで羨ましい限りっす。ちなみに、この組織をベンチマークにしている……みたいなところってありますか?
栗林:Pixarと任天堂でしょうか。どうすれば世界一のコンテンツカンパニーになれるか。
——かなり壮大ですね。
栗林:CHOCOLATEが目指しているのは「世界一たのしみな会社」です。
僕自身、小さい頃どんなに嫌なことがあっても「来週のハンターハンター読むまでは死ねないな」ってよく思ったりしてました。それくらい「たのしみな」エンターテインメントって、明日を生きる活力をくれたり、世界の新しい景色を見せてくれます。
任天堂はゲームという道、Pixarはアニメという道、少年ジャンプは漫画という道を切り拓いて、本物のエンターテインメントを僕らに教えてくれました。
——ゲームや漫画に人生を救われた、という人は本当に多いですよね。
栗林:はい。そんな先人たちの草分けがあったからこそ、僕らはもっと先の道を切り拓くことができるし、そこには必ず、見たことのない景色が待っているはずです。そのために絶対に必要なことが、越境。
栗林:異分野のコンテンツプランナーが、それぞれの分野で培った「人の心を動かす知恵」と「熱量」を結集し、凝縮して、見たことのないものを作る。「CHOCOLATEのつくるものが楽しみで死ねない」って思われるくらいたのしみなものを作り続けたいです。
——栗林さんは一貫して「プランナー」という肩書を使っていた。企画の力があれば、越境したものづくりが出来る……という強い信念を感じる。実際、インフルエンサーはタレント的な露出面が注目されるかもしれないが、そのスキルの要はプランニング力だ。自ら、ゼロベースでSNSを始め、数多の企画を実行し、育ててきたのだから。
才能あるプランナーたちが、分野を越境して集まる。SNSで国境や興味関心が限りなくシームレスに近づいた今の時代。彼らがCHOCOLATEという旗のもとへ集まったことに、大きな期待をせずにはいられない。
Text by 塩谷舞(@ciotan)※PR記事ではありません!