女子高生も、芸能人も、起業家も、みんなが彼女の噂をする。菅本裕子 23歳
2017.10.26
Text by 塩谷舞(@ciotan)
まさか、元アイドルを取材することになるなんて。
「元AKBグループ」という華やかでマスメデイア的な肩書きは、このメディア、milieuで紹介してきたクリエイターたちとは毛色が違う。正反対、と言ってもいいくらいに。
ただ、どうしても今、彼女を取材しなきゃいけない。ここ最近、メディアや広告関係の仕事をする知人と「今注目のコンテンツメーカーは?」という話題になると、女性も、男性も、何人もが彼女の名前を口にする。
菅本裕子、23歳。
みんなから”ゆうこす”と親しまれる彼女の存在は、あまりにも象徴的なのだ。
たとえば、元SMAPの3人による、SNSをフル活用するであろう「新しい地図」の取り組みや、柴咲コウさんのオンラインビジネスを中心とした事業の立ち上げなど、2017年には、芸能界の流れが大きく変わるであろう、エポックメイキングな出来事が立て続けに起こった。
新しい地図の取り組みは、芸能の仕組みが「事務所・テレビ・広告会社」の鉄のトライアングルから、「プラットフォーム・ファン・インフルエンサー」の新しいトライアングルへ移行する象徴的なものになりそう。この流れは不可逆で、すでにいま起きていることだけど、SMAP事変が決定打に。
— Keisuke Kanno (@keisukekanno) 2017年9月24日
「事務所・テレビ・広告会社」という従来のトライアングルから、「プラットフォーム・ファン・インフルエンサー」という新しいトライアングルへーー…。
これは、嗅覚の鋭い人たちの間ではずいぶんと前から提唱されていたことで、既に多くのタレントやクリエイターたちがSNSを駆使して、フォロワーを増やし、熱気あふれるファンイベントを開催している。
ただ、そんな新トライアングル勢の中でも「菅本裕子のシンデレラストーリー」は、他の誰とも重ならない。あまりにヘビーで、あまりに鮮やかなのだ。
「”おはよう!” とツイートすると、”死ね!”とリプライが来る、地獄のような毎日でした」
彼女は18歳でHKT48を脱退した後、なかなか軌道に乗らず、地元である北九州の実家でゴロゴロしながらもネットで忙しいフリをしているか、「あの子アイドルやってたけど、失敗したらしいわよ」と地元で噂されるのが嫌で東京の彼氏の家に転がり込んでアルバイトをしているかーー……そんな生活だったと言う。その間、二度も大きなネット炎上を経験した。
そこから、2016年8月に個人事務所を立ち上げ、様々な企画をスピーディーに実現し、現在の場所までたった1年で駆け上がった、というシンデレラストーリー。「モテるために生きている!」という強烈なキャッチコピーは「ネオぶりっこ」として注目を集め、SNSの合計フォロワーは現在76万人。
もっとも、シンデレラといっても、王子様に見初められた……というより、SNSという馬に跨り、仲間を見つけ、自力で建てた城の上まで駆け上がった、というほうが適切でもある。
毎日愛用しているのは、イヴ・サンローランのリップティントに、動画編集ソフトのFinal Cut Pro X。メイク動画を配信するYouTubeチャンネルは全て自分で編集し、その再生回数は10万、100万……と増えるばかり。
彼女がSNSで力いっぱい紹介したコスメが飛ぶように売れるのは、ファンたちから「この人は嘘をつかないから」と強く信頼されている証拠だ。
ファンから強く信頼され、愛されている、23歳のインフルエンサー。
ただ、過去にネット炎上したタレント、というのは従来型のトライアングル「事務所・テレビ・広告会社」では、残念ながらリスク回避のために起用を避けられがちだ。
しかし、幸いにも時代は「プラットフォーム・ファン・インフルエンサー」という新しいトライアングルに傾いているし、彼女は失敗しながらも、その領域を象徴するような存在になっていったのだ。
そして今は、その圧倒的な発信力と支持力を買われ、錚々たる企業の仕事にも活動領域を広げ始めている。「20代女性タレント」という枠を埋めるようなキャスティングではなく、様々な企業やメディアが「菅本裕子」そのものを求めているのだ。
もちろん、その新しいトライアングルにも欠点はある。インフルエンサーへの、精神的負荷だ。
彼女のTwitterには、毎日100通を超えるDMが届き、その多くが悩み相談らしい。従来のタレントであれば、まずは事務所がチェックしてから本人に読ませるところを、彼女そのはすべてを直接受け取っている。
SNSのダークサイドについては以前こちらの記事でも言及しているが、つまりこの「新トライアングル」を乗りこなすためには、インフルエンサー自身がかなりタフで、聡明でないと成り立たない。
菅本裕子の発信力を支える強さは、一体どこから来るのだろうか。
私は6歳年下の彼女に、教えて欲しいことばっかりだった。
中学を中退した。理由は「好きな先輩が退学したから」
ーーSNSでゆうこすを見ていると、本当に発信を止めないし、手を抜かないですよね。私はそこまで出来ないから「少し、無理してるんじゃないのかな?」 と勝手に心配になってしまうくらいなんだけど……ネットでの情報発信はもう、ずいぶん昔から?
菅本:パソコン自体はもう、物心つく頃からですね。「なにか描きたい!」って思ったときは、紙とペンじゃなくて、パソコンで絵を描いてました。Windowsに標準装備されていた、「ペイント」ってソフトですが…あれを2歳くらいから愛用してたんですよ。
ーー2歳!たしかに、2歳の頃にWindows95が出てる世代だ……。
菅本:でもインターネットを始めたのは、中1の頃くらいです。ふつうに、ガラケーでゲームしてたり。
ーーそこは普通だ。中学時代だと、芸能界に入る前ですよね。当時は、比較的普通の子だったーー…?
菅本:いや、かなり様子のおかしな中学生だったんです。移動式のパン屋を見かけると、「ごめん、遅刻するわ!」と同級生に伝えて、パン屋を追いかけて5時間目にやっと登校したり。中高一貫校だったんですが、当時すっごく好きだった先輩が高校を中退しちゃったので、「あ、高校行く意味ないな」と判断して、中学を辞めちゃったり……。
ーーえ、義務教育なのに?
菅本:それが私立だから、辞めれちゃったんですよ。でも、受験の2ヶ月前くらいに、どうしても行きたい高校が出来ちゃったんです。そこが偏差値65くらいのところで……
ーー……差し支えなければ、その時点での偏差値は?
菅本:受験1ヶ月前に、テストを受けたら合格するのは偏差値38の高校でした。1教科9点とかで……。
ーー?! それはなかなかの大きな野望ですね……。
菅本:そう、みんな本気にしてくれなくて。近所の塾に「来月、八幡高校を受験したいので、入塾させてください!」と申し込みに行ったら、「塾のレベルが下がってしまうから、どうか来ないでください」と断られちゃって。
ーーそれはひどい。
菅本:私もそんなこと言われるとは思ってなくて、「ふざけんな!絶対合格するんだ!入れて欲しい!」って怒ったんです。そしたら、「わかった。これを渡すから、頼むから帰ってくれ」と、中学1〜3年のテキストをドサッと渡されたんですね。
ーー15歳相手に、なんと見事な門前払いを。
菅本:悔しくって悔しくって。そこから1ヶ月、猛勉強しましたね。毎日20時間。お風呂も入らず、頭にハチマキ巻いて、親にも「部屋には入らないで!」と言って。
ーーその結果は?
菅本:志望してた八幡高校に合格したんです!
ーーすごすぎる……!『ドラゴン桜』や『ビリギャル』でも1年間のストーリーなのに(笑)。
菅本:もう、嬉しくって嬉しくて、門前払いされた塾にも「私、合格しましたよーー!」って、ドヤ顔で報告に言ったんですよ。そしたら……
ーー謝られた? それとも、びっくりされた?
菅本:いや、「菅本さん、ウチの塾の卒業生ってことにしてもいいですか?」と言われて。合格実績になるから、って。そこで、またブチ切れちゃいました(笑)。
ーーそれは本当に怒っていいやつだ……。でも、おかしいと思ったら自分の意見をバシッと言うところも、異常なまでに熱量を注ぐところも、今の「ゆうこす」と同じ部分があって、なんだか昔っから今のまま、というか。
自己プロデュース力は、これからもっと重要になる
菅本:きっと私は、「ゆとり」の頂点だと思うんです。気が狂うほど勉強して合格した高校も、HKT48に入るためにすぐ退学してしまったし。HKT48も、その後やったお料理アイドルも、すぐに辞めてしまって……。好きじゃないと続かない。
ーー…今やってる仕事にも、いつかその日が来ると思う?
菅本:いや、今はすごく、ハマってるんです。人生で1番ハマってる!私はSNSで人生が変わったし、これからはSNSでの自己プロデュースって、もっと重要になっていくと思うんです。
これまでの芸能界って、大手事務所があって、そこにタレントが入って、売り方を決めて、テレビ局や広告代理店からの「こういうタレントが欲しい」という依頼に答えて……という構造が王道だったと思うのですが、これからは自己プロデュースができるタレントがどんどん出てくると思うし、そういう人は残っていくと思います。
だけど、SNS上手に使いこなしている人って、まだあんまり多くない。だから『SNSで夢を叶える』というノウハウを詰め込んだ本を出したし、それをもとにどんどん講演会もやっていきたいんです。
私のファンが、芸能界の大人に騙されるのは絶対に見たくない
ーータレントというよりも、プロデュースすることに興味がある?
菅本:ありますね。でもそう思ったのはやっぱり、自分自身の経験が大きくて。私って、「元HKT」という………黒毛和牛が鈴つけて歩きよるみたいな商品、だったんですよね。
ーーたとえが、牛!
菅本:いやでも本当、「元HKT」っていう商品がひとりフラフラしてたから、利用しようとする大人はたくさんいたんですよ。それも本当にお話が上手で、有名な会社に勤めていて。当時の私にはそんな相手が良い人か悪い人か…だなんて判断できなかったんです。
それでここ数年、本当に辛い思いもいっぱいしたし、悔しいことも沢山ありました。
今、「ゆうこすに憧れてて、芸能界に興味があるんです!」という女の子が、たくさん相談してくれるようになったんです。でも、そんな子達が、私みたいに大人に騙されてひどい思いをしてしまうのは、絶対に見たくない。だから、“やりたい事をやって生きたいの!”というワークショップを開いて、事務所に入るまでの注意点や、自己プロデュースの方法を伝えているんです。
将来の夢がないんだったら、職業そのものを作るしかない
ーー問題にぶつかって、課題解決のための事業を立ち上げる……まるで経営者の視点ですよね。「アイドルになりたい」「モデルになりたい」といった形から入るのではなくて、時代のニーズを読んで、自分のやるべき仕事を、自分の頭で考えてる。
菅本:そうですね……「どんな職業になりたいの?」と聞かれても、これまでずっと適当に答えちゃってたんです。でも、みうらじゅんさんの『「ない仕事」のつくりかた』という本は好きで。
今「これだ!」って思える将来の夢がないんだったら、職業を作るしかないんだな、と。その後、「モテクリエイター」を名乗るようになりました。
自分の気持ちに、嘘は付きたくない
ーーその生き方は、本当に素敵だと思います。既存の職業やブランドに強い憧れを抱きすぎると、盲信的になってしまって、時代の変化に疎くなってしまうし……。でも、やっぱり今のペースだと、少し疲れないですか?
菅本:ずっと「オン」だと疲れるかもしれないんですが、今は全部「オフ」みたいな感じなんです。個人事務所を一緒にやってるマネージャーの二人とは友達みたいな関係性ですし、いつも遊んでるみたいな感覚で。
ーーじゃあ今もオフだ。
菅本:今、めっちゃ楽しいです。milieuの記事、ウチのマネージャーもよく読んでるので(笑)!
ーー嬉しいなぁ。でも本当に、小さなメディアなのに、恐縮です。
菅本:小さいか大きいか……という話よりも、私は好きな人と仕事をしたいし、自分の気持ちに嘘を付きたくないんです。
よく、バラエティー番組から「モテるキスのテクニックを披露してください」というようなご依頼があったりするのですが、それは、私の思う「裏表なく愛されるモテ」とは違うんですよね。だから「私のカラーには合いません、申し訳ないです」とお断りするのですが……。
ーー以前、ブログにも書いてましたよね。
菅本:はい。ブログもだし、メディアでコラムを書かせてもらえたり、本を出せたり……そうやって自分で作っていけるほうがずっと好きなんです。YouTubeも、誰かに編集されるよりも、自分で編集するのが一番良くって。インターネットって、最高だと思いませんか?
ーー思います。……とはいえ、YouTubeの動画編集くらいは、誰かプロに任せても良いのでは? これ、かなり編集に時間かかってますよね……?
菅本:いや、誰かに全部任せてしまうと、もっと時間がかかりすぎちゃいます! YouTubeやSNSって、スピード感が一番大事だと思うんです。商品を買ってきて、撮影して、編集してもらって、私が確認して、アフレコして、また確認して……ってやってると、みんなを待たせすぎちゃう。
でも、いずれかは誰かにお願いしようかな、とも思ってないわけでは無いんですが、でもまずは自分ができるようにならないと適切な指示は出せないじゃないですか。だから、死に物狂いで努力しました。
それにみんな、プロの撮影したクオリティの高い動画が見たい訳じゃないと思うんです。生活感や、リアリティが垣間見えるほうが大事で、だから自分で編集する。だから、もし誰かに頼むとしたら……
ーー頼むとしたら?
菅本:同棲してる彼氏が動画クリエイター、くらいの距離感じゃないと難しいですよね(笑)。
ーーもしそうなったら「あれ、これは恋してる表情だな」……ってなるかもね(笑)。
ーーこれから挑戦したい仕事って、どんなことがありますか? たとえば、この人と対談したい! …とか。
菅本:著書の帯も書いていただいたんですが、家入一真さん! ホリエモンさんとも、お話してみたい……。
ーー方向性が完全にベンチャー起業家ですね(笑)。
ちなみに、秋元康さんは?
菅本:是非やりたいです!! …あぁでも、ちょっと緊張します。いやでも、お話してみたい。いやでも……
ーーその対談は、ぜひ読んでみたいです。
ーー私はこれまでいろんな人に取材したけれど、その中でもゆうこすはポジティブな空気がすごくて、今日はずっと圧倒されちゃってます。
菅本:そんな(笑)! でも数年前までは、すっごく情緒不安定だったんですよ。
全然仕事なんてないのに、Twitterでは忙しいふりをしたり、楽しいふりをして…。そうするとやっぱり、本音じゃないから、ネガティブな反応が帰ってきた。それを見て落ち込んだツイートをすると、さらにネガティブな反応が来てしまって……。
ーー本音の言葉かどうかって、SNS越しであっても、わかってしまうものですよね。
菅本:そうなんです。今は、本当に好きなことだけをやって、それを本音で発信していきたいんです。それはワガママじゃなくて、私の「意志」です。
ーー実はこの記事の取材の日、撮影のアシスタントに入ってもらった23歳の女の子が、北九州出身。しかもなんと、ゆうこすと同じ中学校で、一緒に謎のガールズバンドを組んでいた……というほどの仲。
変わり者で女友達が少なかった…という菅本裕子の、数少ない古い友人の登場は、この日の撮影を大いに盛り上げた。旧友と再開するとやっぱり北九州の方言が出るのだが、それがまた本音らしくて、キラキラしていた。
撮影が終わって、ゆうこすが帰ったら、華やかな台風が去ったような感覚だった。
「この2年で、私は世界が変わりました」と、SNSを通じて伝える彼女。確かに、自己プロデュースの結果、彼女を取り巻く世界は大きく変わったかもしれない。
ただ、中学時代の友人である「あきちゃん」は、笑顔でこう教えてくれた。「いや、裕子は昔から、あんな感じなんです。本当に元気で、破天荒で、今と全然変わらない」と。それを聞いて、なんだか安心した。
「ゆうこすみたいになりたい!」という夢を持っている子がいたら、それはなかなか叶わぬ夢かもしれない。だって、彼女は破天荒で、スーパーポジティブ。ただ、あきちゃん曰く、それが「裕子らしい」姿なのだ。
本来の自分らしい姿のまま、SNSを乗りこなしている。だから彼女の投稿には人を動かせるほどのパワーがあるし、多くの人が魅了されてしまうんだろう。
これからの時代を象徴していくのは、誰かの意図でその役を演じている人よりも、しっかり自分の魅力を理解している人だ。「何者かになりたい」という答えは、意外と自分の中にもう、備わっていたりするものだ。
女子高生も、芸能人も、起業家も、みんなが彼女の噂をする。
菅本裕子、23歳。自分より6歳下の彼女を、偉大な先駆者だと強く思う。
Text by 塩谷舞(Twitter Instagram)
Photo by YansuKIM(Instagram)
最新の著書はこちらです。
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