ついに今週末。東京ミッドタウンで、どこまで「ギリギリ」の表現が繰り広げられるのか?

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Text by 塩谷舞(@ciotan[PR]

 

 

2 月21 日から4日間、東京ミッドタウンでメディアアートのフェスティバルが初開催されるからと、取材を打診された。「未来の学校祭」というものらしい。

東京ミッドタウンのことは説明する必要もないとは思うが、そりゃあもう世界最高峰の洗練された複合施設だ。「ブランディングとはかくあるべき」といった空気が満ち溢れている。服や食器はもちろん、スーパーに並ぶ野菜やフルーツ、そしてトイレの隅に至るまで、すべてが誇らしそうに輝いているのだ。まぶしい。

海外のどんな都市に行っても、ここまで美しく輝く現代的な複合施設にはそうそう出会えない。破竹の勢いのアジア諸国ならともかく、私が今暮らしているニューヨークには、あんなに広大で洗練された場所は存在しない。

そんな最高峰の複合施設は、様々なコンペやイベントを通して日本のクリエイティブシーンを育んできた。素晴らしいアイデアやプロダクトがここから出発しており、美意識を高めたいからミッドタウンに行く……といった人もいる。

中でもデザインに対するアプローチは特筆すべきものではあるのだが、今回は毛色が違って、メディアアートのお祭りだという。

「デザインとアート」の違いはよく議論されるところではあるが、それは明らかに性質が異なる。前者が人の生活を快適に、便利にするものだとしたら、後者は人生の歩みをわざと止めて考え込ませるような「異物」とも言えるだろう。


東京ミッドタウンという空間で、果たしてどれだけの「異物」が許されるのだろうか? きっと当たり障りのない、オシャレな感じに収められるのだろう……と(かなり斜に構えた視点で)パンフレットを見ていたら、普通にびっくりした。

展示作品「I Wanna Deliver a Dolphin…(私はイルカを産みたい…)」(長谷川 愛)

 

 

これは長谷川愛さんの「I Wanna Deliver a Dolphin…(私はイルカを産みたい…)」という作品だ。人間の女性がイルカを出産する。発表当時ひとりスマホでひっそり再生し、ドキドキした記憶がある。

これがチケットすら必要ない東京ミッドタウンの開かれた空間で上映されるというのだ。一体どんな空気がそこに生まれるのだろうか?

 

女性の生殖器の感染予防を促進するための培養キット「Future Flora」なども展示される。

「Future Flora(フューチャー・フローラ)」(ジゥリア・トマゼッロ)©Giulia Tomasello

 

ここ最近、生理など女性特有の悩みを「恥ずかしいこと」として黙っているのはもうやめよう!という活動がSNS上で若きオピニオンリーダーたちから生まれてはいるが、こうしたパブリックな空間で展示されることの意味は大きい。

 

ジェンダーを取り扱ったものだけではなく、『WIRED』日本版が手がける子ども向けの昆虫食ワークショップ「2050年みらいの給食:昆虫編」などもある。

 

「ひっ、虫!」と後ずさりしてしまうのだが、昆虫食は来るべき食糧難の未来に向けて、あらたな主食のポジションに歩み寄りつつある。世界一のレストランNomaがアリを提供したり、食用コオロギなどを主軸にしたスタートアップが世界各国で多額の投資を受けたりと、昆虫食を受け入れることは今、アーリーアダプターの証にもなっているのだ。

これはメディアアート……の枠組みとは異なるかとは思うが、「未来の学校」というテーマには実にふさわしい。


が、これまで東京ミッドタウンで行われてきた数々の取り組みとは、明らかに性質が異なる。10年前だと実現されなかったような、現代的な価値観のものが多い。個人的には大賛成だが、クレーム大国の日本において、かなりリスキーな企画でもあるだろう。

 

「未来の学校祭」プロデューサーの、東京ミッドタウンマネジメント株式会社酒井恭佑さん、藤谷菜未さんにお話を伺った。

東京ミッドタウンで、どこまで「ギリギリ」の表現が繰り広げられるのか?

 

(左)藤谷 菜未さん(右)酒井 恭佑さん

 

塩谷:正直、今回の「未来の学校」は、東京ミッドタウンのようなパブリックな場の催しとして、かなり際どいジャッジをされているなぁ、と感じたのですが……

藤谷:まさに、今回の「未来の学校」のテーマが「ギリギリ」なんです。

塩谷:ギリギリ!

展示作品「Balance From Within」(ジェイコブ・トンスキー) ©Jacob Tonski

 

藤谷:東京ミッドタウンはまもなく開業から12年を迎えるのですが、10周年を機に、新しいことを始めていこうと、オーストリア・リンツのアルスエレクトロニカ※と連携することになりまして。2018年のアルスのフェスティバルのテーマが「error」だったのですが、それを日本に持ってくるにあたり、「ギリギリ」としました。

※リンツでは毎年9月に街をあげた「アルスエレクトロニカ・フェスティバル(以下アルスフェス)」が開催されている。


塩谷:
世界最高峰のメディアアートのお祭りですね。

藤谷:はい。ですがそれだけではなく、メディアアートを通した町おこしにも成功している都市で、学ぶことが多くあります。

酒井:リンツという小さい町で、40年にも渡ってメディアアートのフェスティバルをやっているんですよね。だから、フェスティバルには幼稚園児からおじいちゃん、おばあちゃんまで本当に幅広い市民が参加しているんです。アルスフェスでメディアアートについて話し込んだ人が、地元のタクシーの運転手さんだったりして。

 

アルスフェスでの和田永氏によるパフォーマンスの様子。東京ミッドタウンでも2月23日(土)にパフォーマンスを行う ©vog.photo

酒井:アルスフェスでは、子どもも大人も、メディアアートを楽しむ土壌が出来ている。東京ミッドタウンも、そういった場所になっていきたいんです。それが、学会のように閉じた場所ではなく、パブリックに開けているところでメディアアートを展示する意義なのかなと思います。

塩谷:素晴らしいですね。ただ、よく企画が通ったなぁと……!

酒井:最初は難しかったですよ (笑)。ですが、上司がすごく理解のある人で、開催できることになりました。

そもそもアルスは、社会に介入していくことや、ジェンダーのバランスをすごく大切にしているんです。ですからそういった「ギリギリ」の作品を排除してしまっては、これは単なる「楽しい見本市」になってしまいます。

 

展示作品「πTon(ピトン)」(Cod.Act コッド・アクト)©Vavier Voirol credit: Cod.Act are Michel and André Décosterd (CH)

展示作品「SEER」(藤堂高行)制作協力:制御プログラム:三井所高成、電子回路設計:小山裕貴

 

塩谷:「ギリギリ」の作品を日本のパブリックな空間に展示したとき、一般のお客さんにどう映るのか……どんな反応が出てくるのか、ちょっと想像出来ないですね。

酒井:そうですね。そもそもメディアアートがヨーロッパで受け入れられやすいのは、ディスカッションや、歴史などの文脈考察が好きなことが背景にあると思います。メディアアートは最新のテクノロジーを用いる……といった側面が注目されがちですが、実際のところ、政治や宗教、ジェンダーの話に切り込んでいく作品がすごく多いので。

塩谷:そうですね。批評を好む欧米に比べて、日本人は調和を好むし、美術といえば絵の美しさや技術の巧みさが重視されますよね。もちろん一概には言えませんが、文化の違いは大きいです。

藤谷:日本では、宗教や言葉、考え方が違う人とディスカッションする機会があまり多くないですよね。このイベントをきっかけに、これまで考えていなかったような問いやディスカッションを始めてもらえたらいいなと思っています。

塩谷:展覧会に慣れていない場合、展示されている作品が理解できなかったとき、「社会的に評価されて、展示されているからすごい作品なんだろう」と思考停止しちゃったりもしますが、「本当にすごいのか?」「自分はどう評価するのか?」ってことを考えたり、友人と話し合ったりするのは、アートの醍醐味ですよね。

ただ、パブリックなものでいえば六本木アートナイトなどの行政主体のアートフェスティバルはこれまでにもありましたが、私が持っている東京ミッドタウンのイメージは「洗練されたデザイン」でした。だからこそ今回の取り組みは、かなり意外性があります。

酒井:そうなんです。アルスエレクトロニカが掲げる「先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像」が街にインストールされたときに、何が起きるんだろうというところを突き詰めていきたいんです。

塩谷:「未来の学校祭」では、突飛な作品がある一方で、かなり日本らしいというか、「ハレとケ」でいうところの「ケ」を提示しているプログラムが多いのも印象的でした。お祭りの場でありながら、「心を調えるシステム」も体験できる。

「心を調えるシステム」(株式会社東芝、東京エレクトロニツクシステムズ株式会社)

 

酒井:「心を調えるシステム」は、呼吸に注目をしたプロダクトですね。これは、「東京では、マルチタスク人間にならないと上手く生活できない」というところに注目して作られたものなんです。マルチタスクに対応するためには、頭をピッと切り替えられることが必要。それには呼吸法で、うまく自分の体をコントロールする必要がある……という。

塩谷:え、それは体験してみたいですね……。

今、欧米ではヨガや瞑想などが本当に流行っていますが、そもそも大量消費の時代を終えて、あらためて「ZEN」カルチャーがものすごく重要視されているなぁ、と。セラピーのように「片付け」をするこんまり(近藤麻理恵)さんのアメリカでの活躍も話題ですが、こうした「心を調えるシステム」はすごく日本的だし、今の時代にフィットしているなぁと思います。

 

ニューヨークと六本木を繋いでのSkype取材

塩谷:日本を離れて暮らすと、「あれ、日本ってすごかったんだな……」ということをひしひし毎日感じていて。

藤谷:どういった側面で感じますか?

塩谷:東京ミッドタウンみたいな綺麗な複合施設はもちろんですが、同時に日本ってテクノロジーアート先進国でもある。街中とか駅ナカにあるサイネージの技術レベルも高いですし、ライゾマティクスやチームラボなどの活躍も世界的です。ですが、その状況、日本の中にいると「どの先進国でも同じなんだろう」と思っていて、あんまりその凄さに気づかなかった……。

酒井:そうなんですよね。アルスの「プリ・アルスエレクトロニカ」というコンペティション部門では、これまでに坂本龍一さんや真鍋大度さんらが受賞され、昨年の受賞者は相対性理論のやくしまるえつこさんでした。

塩谷:本当、スター揃いなんですよね。それに海外のメディアアーティストなんかと話をしていると、表に名前があまり出ない日本のエンジニアの方々も、技術力の高さからリスペクトされている人が沢山いるんだと知りました。

ただ、フィギュアスケートだったら日本は世界トップレベルの選手がいるよね、って国民みんなが知っているじゃないですか。でも、メディアアートやテクノロジーの表現で、日本がトップレベルなことにはいまいち無自覚だなぁ、と。私も、アメリカに来て初めて気づいたくらいです。

酒井:アルスフェスの会場でも、日本人は多いですからね。わざわざオーストリアまでメディアアートの祭典を観に行こう……という人が多く、モチベーションが高い。

塩谷:そうですよね。だから、東京でメディアアートのお祭りが開催されるというのは、「世界最高峰の祭典」になるポテンシャルがあるなぁ、と。この取り組みは、今後も続いていくんですか?

酒井:はい、アルスとは来年も並走して取組みをやっていくことは決まっています。

そして今後の長期的な一つの目標は、「Gravity(重力)をつくる」というところですね。アート思考が強まっていくと、東京ミッドタウンにそういう思考が強い人たちが引き寄せられて、ある種のコミュニティが形成されていくんじゃないか、と思っています。そこに企業のパートナーが入ったり。

アーティストの思考からひも解いて、それがどのように街を形成していくかを長期的に見届けていきたいですね。

塩谷:じゃあ、街づくりのコンサルタントとしてアーティストが起用されるイメージでしょうか?

酒井:そういうイメージに近いです!

塩谷:面白いですね。六本木って、日本でありながら半分外国というか、外から来たものを受け入れやすい街だと思います。六本木から始まって、東京、日本と、どのように議論が広がっていくのか。楽しみにしています!


——東京ミッドタウンが出来たばかりの頃を、よく覚えている。2007年、私は18歳だった。夜行バスで、始めて東京にひとりで遊びに来た大学1年の頃。雑誌で見た通りの、あまりに美しい空間を前に、そこに立つ不釣合いな自分が恥ずかしくなるほどだった。洗練されてない人は入っちゃいけないような気もした。

そんな東京ミッドタウンが生まれて12年。時代は変わった。SNSを起点としたムーブメントが起こり、多くの個人や、企業が、強いメッセージを伝えて社会を動かしている。SNSに投げかけられた小さなオピニオンは、街へと波紋を広げていく。

クリエイティブのトレンドを生んできたこの場所が変わる。それを目撃したくて、急遽羽田行きの飛行機を予約した。

 

[PR] 提供:東京ミッドタウン
執筆:塩谷舞
編集:齋藤 あきこ
写真:石野 千尋

 

TOKYO MIDTOWN × ARS ELECTRONICA「未来の学校祭」

【期間】 2 月21 日(木)~2月24日(日)
【時間】 11:00~21:00
【場所】 東京ミッドタウン各所
【プログラム】(詳細はオフィシャルサイトでご確認ください)

【参加作家・企業】(順不同)
ジェイコブ・トンスキー / ヴェレーナ・フリードリヒ / Ryo Kishi / Cod.Act / 藤堂高行 / 長谷川愛 / Heteroweaveプロジェクトチーム(東京大学筧康明研究室、株式会社細尾、山口情報芸術センター(YCAM)) / ANAホールディングス / 株式会社東芝 / 東京エレクトロニツクシステムズ株式会社 / ジゥリア・トマゼッロ / 株式会社デンソー / 株式会社エクサウィザーズ / 株式会社アイ・エム・ジェイ すまのべ! / アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ / Hakuten Corporation / 和田永 / ウラニウム(脇田 玲+石原 航)+ 藤村龍至/RFA / 『WIRED』日本版  / ほか

詳細はこちら

 

東京ミッドタウンマネジメント株式会社 藤谷さんによるオススメコース


藤谷:午後1時くらいからスタートしてもらって、最初にまずエキシビションのギリギリ・ルームからプロダクトなどのエキシビションを見始めて、15時くらいから休憩。小休止を経て、ラボラトリーに行って、スクエアに行くというような流れですね。

土曜日ですと、16時から18時まで、「アーティスト・イン・カンパニー」という、企業で活躍しているアーティストさんのトークがあるので、それを見ていただいて、18時半からπTonが動くパフォーマンスが始まります。その後は、夜ごはんを食べたり、19時から「メディアアートはTOKYOを変えられるか?」という、メディアアートのフェスティバルのオーガナイザー達によるトークを聞いたり。最後に21時から和田永さんのパフォーマンスで、「通電の儀」に参加していただくというのがフルコースです!

 

TOKYO MIDTOWN × ARS ELECTRONICA「未来の学校祭」

【主催】 東京ミッドタウン
【特別協力】 アルスエレクトロニカ
【助成】 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
【パートナー】 ANA ホールディングス / 株式会社デンソー / 株式会社博展 / 株式会社アイ・エム・ジェイ / 株式会社東芝 / 東京エレクトロニツクシステムズ株式会社 / オーストリア大使館 / JDN / 『WIRED』日本版 / 六本木未来会議 / Media Ambition Tokyo[MAT] / デジタル・ショック / アンスティチュ・フランセ / NewsTV / 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)

 

 

 

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