「文化」と「商業」は両立できる。29歳の起業家が育む、文化という花

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Text by 塩谷舞(@ciotan

 

「ホント好きだから、かなり気合い入れて作っちゃいましたよ。まぁこれ、儲からないんですけどね(笑)」

苦笑いしながら、仲間内でそんな話をする。これは、クリエイター、もしくはクリエイター志望の人たちの間では、よく目にする光景だ。

「好きである」というのは、何にも変えられないモチベーションになるし、魅力にもなる。

けれども。

「好きだから」という気持ちを先行させて走り続けた結果、残念ながら途切れてしまったお店や、劇団や、ギャラリーや、メディアを、数多く知っている。どれだけ愛情があっても、資金は尽きるのだ。

ちなみに「惜しまれながらも閉館」とGoogleで検索したら、30万件以上もの検索結果数があり、そこには愛情たっぷりのブログや、ニッチな映画メディアの記事などが並んでいた。

愛があっても、終わってしまっては、文化は続かない。


「文化度の高さ」「商業的な成功」は、なかなかうまく折り合いがつかない。

文化的な仕事は、それに携わる人の多くが深い愛や、脈々と続いてきた文化への敬意をもって支えているぶん、マネタイズへの意識が低くなってしまうこともある。

もちろん、助成金を活用するという手もあるが、オペラの世界で生きる若者は、自身のブログでこのように訴えていた。

ぶっちゃけ、日本のオペラ業界は大変である。
バブル期までは企業の寄付や行政の助成金で予算がジャブジャブあったので、ひとつ作るのに数億円規模!みたいな公演もあったらしい。

それが、バブルが弾け企業からの寄付や協賛は減り、民主党政権時代の事業仕分けで、文化事業への助成金も軒並みカットされ、羽振りのよかった時代に比べるといまはスズメの涙ほどの製作費で作品を作っている。

芸術を信じて疑わない人たちへ | YamanoYasuhiro

 

どこもかしこも、苦労している。

先日取材でフランス・パリを訪れたときには、その圧倒的な文化と市場の強さにひれ伏しそうになったのだが、日本はどうだ。出版、ファッション、音楽、映画、美術……。「カルチャー」と括られるどの業界からも、景気の良い話なんてめったに聞かない。(そんな中、テクノロジーアート界隈は、クールジャパン・カルチャーの担い手として大忙しだけれども)

 

どうすれば日本で、文化度を保ちながら、長く事業を続けられるのだろう?

このメディアを運営している私自身、まさにその答えを模索中だ。「やりたい!」という気持ちそのままに暴走してしまうし、金勘定もうまくいかない。

 

…と、嘆くのはここまで。ここからは希望のある話をしよう。

日本にも、天才的なバランス感覚で、文化を営んでいる人がいる。

「”継続性”こそが、責任を持って伝統を次世代につなぐ、唯一の方法だと思っているんです」

(写真提供:和える)

そう話してくれたのは、矢島里佳さん。
彼女の言葉には、凛とした強さがある。

テレビや雑誌などのメディアにも度々登場しているため、既に知っている人も多いかもしれないが、簡単に紹介させてもらいたい。

矢島里佳さんは今、29歳。慶應義塾大学在学時に立ち上げた「和える(あえる)」という会社では、彼女が19歳の頃から足繁く通っていた日本各地の伝統産業領域の職人さんとともに、「日本の伝統を次世代につなぎたい」という思いを形にし、子ども向けの伝統産業品という新たな市場を生み出した。

aeru『こぼしにくい器』シリーズ(写真提供:和える)

この「0から6歳の伝統ブランドaeru」をスタートするやいなや、その質の高さと希少性、そして彼女のまっすぐな信念が注目を集めて、様々なメディアで紹介された。すぐに伊勢丹新宿などでの百貨店でも取り扱いが始まり、現在は京都の五条と、東京の目黒にも直営店を構えている。

京都直営店「aeru gojo」にて社員の中川さんと(写真提供:和える)

東京直営店「aeru meguro」店内

この「子ども向け」という商品ラインナップは、彼女が大切にしている「継続性」という面でも非常に優れている。

たとえば絵本業界。例年ヒットしている作品をご存知だろうか?

 

もうずっと前から、『いないいないばあ『ぐりとぐら』『はらぺこあおむし』だそうだ。定番中の定番、どれも不朽の名作である。

大人の世界では、シーズンごとに新商品を出さなければ、飽きられてしまいがちだ。

ただ、子どもの世界は違う。毎年あらたなお客様をお迎えする上に、お財布を握る大人たちは、同じ商品を別の子に向けて、なんども買うことだってある。だって愛着があるんだもの。

aeru『愛媛県から 五十崎和紙の 紙風船』

出産祝いに、お誕生日に、入学祝いに。なにか語れる、とびきりの一品をプレゼントしたい。

そんな時、多くの人の頭にテレビや雑誌で紹介されていた「0から6歳の伝統ブランドaeru」のこと、そして産みの母である「矢島里佳」の言葉がふわりと浮かび上がる。

 

“19歳のとき、日本の魅力を探しに日本全国を回りはじめました。
大人たちに聞くと「そこには何にも無いよ。」と言われました。
それでもきっと何かあるはず。
そう信じて訪ねていくと、そこにはたくさんの宝物が隠されていました。

その宝物とは、先人から受け継がれてきた、
日本のすばらしいものづくりの技術を、今も脈々と受け継ぐ職人たちでした。
この職人たちの技術を、今の私たちの生活に活かしていきたい。”

「和える 代表のあいさつ」より(一部抜粋)

 

「日本の宝物に、なんで大人たちは気づかないんだろう」

19歳の頃に抱いた素朴な疑問を、10年間ぶれずに、まっすぐ育てた。そんな彼女の言葉は、買う人の心にも、職人さんの心にもまっすぐ届くのだ。

 

「0から6歳の伝統ブランドaeru」は毎シーズンごとに新商品を発表しない。

SS / AWといったアパレル業界のせわしないトレンドに振り回されることもなく、売れなかった在庫を倉庫いっぱいに抱えることもなく……創業6年のベンチャー企業ながらも、どこか老舗商店のような穏やかな時間が流れている。

しかし、彼女の夢は大きい。

「すごくやりたかったけど、初期にはできなかったことがね。
今、やっとできるようになったの!」

東京直営店「aeru meguro」まで取材に訪れた私に、とっても嬉しそうにそう話してくれる姿は、まるで大学生の頃の里佳ちゃんと、なにも変わらない。

 

少し昔話になってしまうが——…私たちが最初にこうして話をしたのは、もう10年近くも前の大学時代。既に彼女はビジネスコンテストで優勝したり、著書も複数出したりしていたのだが……正直、かなりの変わり者でもあった。

ディズニーの『美女と野獣』で冒頭にベルが「あの娘は、村一番の変わり者!」と村の人々から歌われるシーンがあるが、まさに大学時代の彼女はそんな存在。優雅で聡明で情熱的、キラキラとした瞳で誰も知らない未来を語る、現代のディズニープリンセス。

 

「一体、あの子はどこに向かうのだろう?」

私含め、彼女を知る人たちは、その動向をいつも噂していた。他の誰とも違う、変わり者のプリンセスは、どんな大人に育っていくのか。

そんな周囲の予想のはるか上を超えて、彼女は今、日本屈指の文化的な起業家に成長した。

今年の9月にベトナムで開催されたAPEC Best Award 2017では、21カ国のAPEC加盟国からその国が誇る起業家たちが集められたのだが、日本からは矢島里佳が選ばれた。彼女を選出したのは、内閣府・男女共同参画局だ。

そこでプレゼンテーションを披露した彼女は、最高の結果を残すことになる。大賞、そしてBest Social Impact賞の二冠を達成したのだ。

https://a-eru.co.jp/ より(写真提供:和える)

そんな彼女は、今年あらたな事業をスタートさせた。伝統産業の職人さんと共に、ホテルのお部屋を、その地域の魅力を伝える空間へと設える(しつらえる)「aeru room」というものだ。

「aeru room」として生まれ変わった、ホテル「セトレグラバーズハウス長崎」の一室。鎖国時代にも中国やポルトガルと貿易していた、長崎らしい文化を五感で体感できる(写真提供:和える)

 

「和える」創業6年。礎を築いた彼女が、次に作る世界とは?

——先日、里ちゃんのFacebookでの投稿を見て、これまでの事業とは形が違うから「こうきたか!」と驚いてしまって。ずっと計画していたことなの?

矢島:創業当時から、「aeru room」の構想はあって。でもやっと、「共にやりたい」と言ってくださるオーナーさんに引き合わせていただくことが出来て、実現出来たの!

ホテル「セトレ」のオーナーさんは、ホテルがただ泊まるだけの場所ではもったいない、という気持ちをお持ちで。地域社会と交流したり、ホテルという場所がコミュニティになる……と考えておられたから、私たちのやりたいことと、本当にぴったりだったの。

——里ちゃんは、全国の職人さんとの繋がりがあるけど……今回の「aeru room」でも、各地の職人さんと一緒に?

矢島:うん、これまで繋がりがあった職人さんもいらっしゃるし、今回あらたに出逢った方も。最初は、地域の調査からスタートして、職人さんにご相談して……。「aeru room」を作り上げるのは、時間はかかるけど、私たちもすごく楽しみながら先行投資をしている事業。ホテルを運営されているみなさんと一心同体で長く続けていきたい。「作って終わり」のビジネスには、絶対したくないの。

——ホテルからの依頼を受けてリノベーションしている…という訳ではなくて、共に文化を作っているような。

矢島:そう、お互いが先行投資なのです。お部屋が完成して、お客様が泊まり始めたら、ロイヤリティという形で私たちにお支払いいただきます。

——利益が出るまでの道のりが長いし、スタートしてからもすぐに投資分を回収できるビジネスモデルではない……よね。

矢島:だから、会社を立ち上げた初期には出来なかったの。構想は既にあったし、すごくやりたかったのだけれど、資金がない状況だとこのビジネスモデルは成り立たないと思ったから。

三方よしのビジネスモデルを生み出したかったから、機が熟すまで待っていたんだ。みなさんのおかげで、少しずつ「0から6歳の伝統ブランドaeru」が育ってきて、2015年にやっと着手できて、2016年に長崎を、2017年に姫路のお部屋をオープンできたの。

——…バランスが、本当にすごい。

クリエイターが社長になってビジネスを始めると、どうしても「やりたい!」というものからスタートしてしまって、見た目は立派に完成しても、裏ではマネタイズが追いつかなかなくて火の車だったりするし……逆に、売上ばかり見ている人だと、文化的投資が出来なくて、軸となるブランドが築けなかったりするけど……。里佳ちゃんみたいなバランス感覚を持っている人は、とても貴重だな、って思います。

矢島:ほうほう……へぇ、そうなのかぁ。解説ありがとう(笑)!

——すごく素敵で愛されているブランドやアーティストでも、経済的な理由で、惜しまれながらも終わってしまう……というのが少なくないから。

矢島:やっぱり、私は継続性こそがもっとも責任を持って、伝統を次世代に繋ぐ唯一の方法だと思っているの。だからこそ、直感だけでビジネスの世界で生き残っていくのは難しい。けれども、ビジネスに寄りすぎても、本質を見失ってしまうから……。

矢島:私たちは、文化と経済が両輪で育み合える形を生み出していきたいし、あたらしい事業も、今ある事業が支えてくれる。だから、次のことを生み出せる。そんな挑戦をしているところなのだと思います。

——しかも、これまでは「子ども向け」で6年間やってきて、お客様も増えてきたと思うんだけど……そこで横展開して別の子ども向け事業を作るのではなく、ホテルのお部屋のプロデュース。商品だけではなく、空間を手がけられていくのは、すごく素敵だな、と思って。

矢島:そう、まずは今日生まれた赤ちゃんに日本の伝統を伝えるところから。でもその後成長して大人になったときにも、日本の伝統に出逢い続けられる環境を生み出すには、様々な伝える入り口を生み出す必要があると思うの。それに、大人のみなさんにも、「和える」が提案する、日本の伝統と共に暮らすをぜひ体感していただきたくて。

「aeru room」は、いわゆる観光地ではない場所にも生み出していきたいと思っていて、「aeru roomがあるから泊まりに行こうか」と、新たな出逢いの機会になれることを目指しています。そして、その場所にしかない魅力を味わっていただきたいのです。

赤ちゃんから大人まで、みなさんに、日本の伝統をぜひ体感していただきたいの。

長崎の「aeru room」では、お酒の輸出に使われていた「コンプラ瓶」を、ハンドソープボトルとして活用している(写真提供:和える)

取材中に見せてもらった「和える」の事業概念図。上の4つは既に実現しているもの、下の7つは今、仕込んでいるものだ。

——この、伝統×研究 ……伝統に科学のメスを入れる、というのは?

矢島:伝統産業の領域でも、一部ロボットを活躍させていきたくって。

——「機械によって職人の仕事が奪われる」と言われがちな伝統産業の世界だと思うけど、あえて職人仕事をロボットに?

矢島:もちろん、今までの「工業化」という視点だと、職人さんが仕事を奪われてしまう……ということになってしまうかもしれない。

でも、私はたとえば「原材料」に関しては、ロボットに凄く期待してるの。漆を掻くお仕事を、ロボットにお願いできないかな? と思っていて。

aeru「石川県から 漆塗りの お食い初めセット」

——あぁ……漆採集、私はやったことがないんだけど、美大生の頃、工芸専攻の学生だけみんな全身虫刺されみたいなブツブツになちゃってて。「それ、どうしたの?!」って聞いたら「漆採取の授業でかぶれたんだよ!」って。3、4年生になると、漆の免疫が出来てたみたいだけど……。しかも、漆って、本当に少しずつしか採集出来ないんだよね。

矢島:本当に大変で……だからそもそも日本では、時間をかけて漆を掻くことの採算が合わなくなってきて、国産の漆がかなり減ってしまっているの。中国でも、人件費が上がって漆が高騰してしまって。

——そうなんだ。漆に似た塗料の「カシュー」は使ったことがあるけど……やっぱり本物の漆とは全然違うし、漆は必要だよね。

矢島:そうなの。だから、これから「誰が漆を掻くの?」という世界が待っているの。そこは、ロボットに担ってもらえたらいいかもしれないと考えていて。ロボットの専門家の方に、ぜひ新たな研究対象にしてもらえたら嬉しいなぁと思っているんです。

——なるほど、それなら実現性が高そう。

矢島:「時代に合わなくなったから文化がなくなる」という部分は、ロボットの活躍で残せる方法があるんじゃないかな。そして、職人さんはより手間をかけるところを担っていく。

伝統や先人たちの智慧を活かした上で、今を生きる私たちの感性を和えて、より良い未来を生み出していくために考えて行動していきたいんだよね。

その他にも口伝で伝えられていることを、様々な企業さんや大学の研究者の方々に、一緒に解き明かしていただきたいなぁと。だから、「aeru labo」では和えるが研究するというよりは、研究のお題を私たちが日々の取組のなかから見出して、研究者のみなさんと一緒に、日本の伝統に科学のメスを入れていきたいという事業なの。

——本当に、里佳ちゃんのバランス感覚はすごい…。

あ、でもね。このあいだ、姪っ子へのプレゼントを買いにこのお店に来たんだけど、その時にあちらのお姉さんに素晴らしい接客をしていただいて。里佳ちゃんもすごいけど、あちらのお姉さんもすごい…!

矢島:めぐみさん、褒められてる!

めぐみ:ありがとうございます。先日は、お越しいただきまして!

——こちらこそ、本当にありがとうございます。素晴らしい接客で、感動しておりました……。こんなに社員の方々みんなが素晴らしいのは、なにか特別な教育があったりするのかしら、と。

矢島:教育……というよりも、育まれていく土壌づくりと、社員同士が育みあえる文化作りかなぁ。あと、自ら考える力を醸成すること。だから、和えるではただの伝書鳩は禁止なの。

めぐみ:オウムがえしも禁止です(笑)。だから自分で考えてお伝えする、それが一番大切なことですね。

矢島:和えるの社員に「和えるって、どんな会社ですか?」と聞くと、それぞれの言葉で答えます。表現は一人ひとり異なるけれど、本質的には同じことをお伝えしていると思うの。一言一句、教科書みたいに同じことを言うのであれば、ロボットの方がいいですよね、間違えないし。

今のこの時代においては、ロボットにできることはロボットを採用するのがいいと思うのです。だから、「人間である理由」を社員の採用でいちばん重要視しているの。

——「人間である理由」。

矢島:うん、自分が人間である意味。これがしっかりと自分の中にある人じゃないと、これからロボットと人間が共に生きていく世界で、ロボットと共存ではなく、ロボットとの戦いになってしまうでしょ。

ロボットがいてくれることで、私たちは人間だからこそ出来ることに、創造力を発揮する仕事をしたいし、していくことがよりいっそう出来るようになると思うの。

 

——みなさん、それぞれの装いも素敵だな、って。和えるらしさがあるけど…べつにこれは制服、というわけではないんだよね?

矢島:一律で制服を着るのは、世界観の統一をするにはとても簡単な方法だと思うの。でも、和えるではあえて、一人ひとりが「和える」のお姉さん、お兄さんとして相応しい服を、それでいて自分らしい服を自分で選んで毎日好きな服を着ています。

それは自分という人間と、和えるくんという子(会社)を深く理解して、なおかつセンスを磨かないとできないことだと思うの。だからこそ、制服がないことで、結果、社員の感性や考える力も育まれていっています。

——確かに。素敵だなぁ。ちなみにめぐみさんは、いつ入社されたんですか?

めぐみ:今年の4月ですね。そこから毎日、自分という人間について見つめ直し、毎日自分で深く考えるようになり、本当に変わりました(笑)。自分で好きなことを、ちゃんと見つけていけるようになった気がします。

——そうなんですね。ちなみに、前職は?

めぐみ:ジャーナリストをしていました。

——え、そうなんですか!

矢島:和えるの社員は、金融機関や、化学薬品メーカー、工業製品メーカー、青年海外協力隊などなど……いろんな経歴の子がいます。

——アパレルや雑貨店のショップスタッフ経験者、というわけじゃないんですね。店舗アルバイトさんは?

矢島:和えるはどうしても、アルバイトさんは雇えないのです。お店で伝える仕事をするためには、aeruのモノづくりに携わってくださっている、日本各地の職人さんの工房へ行って、職人さんのお仕事や地域のことを深く理解しないとお客様に説明できないので。

——すごい。じゃあ、めぐみさんも和えるに入社してから、全国各地の職人さんの現場で勉強されて……?

めぐみ:はい。実際に職人さんの工房へ訪れて、自分の五感を通して学ぶことで、より深いところからお客さまにお伝えできるようになりましたね。

——でも、今後お店の数を増やしていく……となったときには、人員が必要では?

矢島:和えるは小売業ではなく、ジャーナリズム業なので、創業時からお店の数はあまり増やさないと決めてるの。だから今、直営店は、オンライン直営店、和えるのお家として東京直営店「aeru meguro」、和えるのおじいちゃん、おばあちゃんのお家として京都直営店「aeru gojo」の3つがあります。あとは、和えるの別荘ができたらいいねと、みんなで話してるんだけど……それはまた、数年後かな。

——小売業ではなく、ジャーナリズム業、かぁ。あらたな形を自ら探し続けるのは、そういう思想があるんですね。

矢島:そう。「0から6歳の伝統ブランドaeru」のお店の数を増やすということよりも、和えるの事業展開をもっと豊かにして、文化と経済を両輪で育む仕組みづくり(ビジネスモデル)を増やしていくことが、私たちにとって意味があることだと思っているの。そして、全ての事業に共通しているのは、職人さんの存在。

それぞれの事業のアウトプットは異なるのだけれど、本質はすべて一緒。だから、全社員が全事業を理解して、自分たちで語ることができるの。

 


——さて、インタビューは、ひとまずここまで。

彼女は、本当に突き抜けている。周囲の起業家と自らを比べることもないし、焦ることもない。しっかりと自分の脚で、着実に歩いていくのだけど、彼女が通ったその道には豊かな文化が花開いていく。こんな時代でも、そうそう簡単には枯れない花だ。

あぁこれは、インタビューだけじゃなくて、この目で彼女の「お設え」をしっかり見てみなければ。

そう思って、取材の1週間後、私は姫路を訪れた。

姫路の広嶺山という山の上にある「セトレ ハイランドヴィラ姫路」の中に、「aeru room」の第二話がある。

 

お部屋に入ると出迎えてくれるのは、姫路を代表する伝統産業である「明珍火箸」。ぶらん、とゆらすと、トロンとしたあたたかい音色が鳴り響いて、ホッとする。

 

昼過ぎの光をやわらかく通す、京都の職人さんが手作業で仕上げたすだれ。

ふう、と座ってみる。とても静かで、まるで江戸時代のお姫様の部屋にタイムスリップしたような設えだ。この目の細やかな畳は、広島備後の細い「い草」で編まれているらしい。

 

 

三重県・萬古焼の急須に、徳島県・大谷焼きの湯呑み。こうした道具類は、やはり使ってみないとその良さがわからないもの。

こうして、プライベートな空間で道具にゆったり触れると、たちまち距離が近くなる。

そして洗面所には、「0から6歳の伝統ブランドaeru」の定番商品でもある、aeru『徳島県から 本藍染の ハンドタオル』。その手前にある釉薬の表情が美しい洗面器は、青森県・津軽焼。

「aeru room」は、ご覧の通りそのすべてが和えるの商品ばかりで設えているわけではないのだが、このロゴ入りタオルだけは「和えるの象徴」として、全国の「aeru room」で取り入れているそうだ。

畳のお部屋で上を見上げると、そこはなんとも贅沢な一面漆塗り。

 

正直、同い年の矢島里佳ちゃんがここまで立派な事業を作り上げて、なおかつ彼女の設えた空間に囲まれるというのは、少し怖かった。ビジネスとしては全く安定感のない私は、彼女のことをすごいね、すごいねと尊敬するばっかりで、ちっぽけだと思ってしまって。

……でもまぁ、こうゴロンとひとり上を向いて、漆にぼんやりと映る自分自身を見つめていると、それも自分だし、自分は自分だよなぁ、だなんて思わされる。

 

 

学生時代の里佳ちゃんは、ずば抜けて風変わりで、本当におとぎ話の中のプリンセスのようだった。久しぶりに再会した取材の日、私は彼女が10年近く前に熱く語っていた、ある夢のことを聞いてみた。

「昔、里佳ちゃんは、自分のお城を建てるんだって言ってたけど……あの夢は?」

そしたら彼女は、笑いながらこう答えてくれた。

「あのね、それも現在進行中なのよ。幼稚園の頃の私の夢を、大人になった私が叶えてあげるんだ!日本の伝統と現代の感性を和えて暮らす私のお城。完成したら遊びに来てね!」

 

あぁ、やっぱり彼女は変わってる。こんな人は、めったにいない。

最高に風変わりで、賢くて、日本の伝統を心から愛している。彼女の育む文化は、そう簡単には枯れないだろう。

Text by 塩谷舞(@ciotan
Photo by 白水桃花(@nemuiasaa
※aeru meguroでの写真のみ撮影

※京都・目黒ともに直営店は12/26〜1/4まで冬季休業です。

 


イベントのお知らせ 「文化を育むビジネス」

矢島里佳さんと、以前こちらの記事でもご紹介したHOTEL SHE,OSAKAなどを経営する龍崎翔子さんのトークイベントがあり、私塩谷がモデレーターをさせていただきます。
以下のサイトからお申し込みください。

・「文化を育むビジネス」

 

 
 

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