海外進出を考えているのなら、この制度は知っておきたい!はじめての海外商談で使えるノウハウもお伝えします
2018.03.28
Text by 塩谷舞(@ciotan)[PR]
「このインターネット時代なんですから、もっと海外市場を視野に入れていきましょう」
——そう口にするのは、めちゃくちゃ簡単だ。
海外への情報発信。国外への販路拡大。
ここmilieuでも何度かテーマにしてきた話題だが、メディア上で「どうしてやらないの?」と語るのは実に簡単で、実行するのはその10000倍、むずかしい。
私に限っていえば、フリーランスであり、小さなWebメディアの編集長という身軽な立場だからこそ、住む場所も比較的自由に選べるし、パソコンとネット環境さえあれば仕事は出来る。
しかし、だ。世の中、もっと大きなビジネスを手がける人は、そう簡単にはいかない。輸送は?関税は?現地での人件費は?言語は?国選びは?ニセモノ対策は?失敗した時の撤退リスクは???
そんな難易度SS級の高い壁があるのに、「どうしてやらないの?」とだけ問いかけるのは、ちょっとずるい。ネット上には様々な企業のサクセスストーリーで溢れているけれども、無責任に「成功例」だけを伝えているのっていうのは、情報源として偏っている。うーん、失敗事例をもっと取材すべきなのか……? しかし失敗例なんて、恥ずかしいからだれも喋りたがらないし、ノウハウとして提供してくれる先駆者は少ない。
というモヤモヤの中で、1通のメールが届いた。
「海外進出したい中小企業やスタートアップに、もっと知ってもらうべき制度があるんです」
メールの主は、中小機構、正式名称は「独立行政法人中小企業基盤整備機構」(長いっ!)の藤巻さんという男性。
経済産業省の管轄にある、中小企業の海外進出を支援する組織ということなんだけれども……ものすごくぶっちゃけて言えば、最初はこう思ってしまったのです。
「あ〜〜…お役所案件か〜〜……」
お役所イコールめんどくさい、というのがもう、パブロフの犬ばりに染み込んでいるのだよ。しかし取材したところ、驚きました。本当。
結論だけ先に言えば、
- 海外進出に悩む企業に、国選びからパートナー選びまで専門家がアドバイス
- 1年間、渡航調査やWeb制作にかかる費用の半額(上限140万円)まで、補助金を支給
- 経験豊富なアドバイザーと一緒に渡航調査へ。現地での交渉もサポート付き
- その後のアフターケアもしてくれる
- これら全てが無料 ¥0!!!!
…というびっくり制度がありました。ご存知でしたか? 私は知らなかった……。詳しくはですね、ここから5分ほど、お時間ください。(記事が長くて読むのが大変……という方は、音声コンテンツでも配信しています。取材裏話アリ、ぜひこちらでどうぞ!)
この日訪れたのは大阪、堺筋本町にあるビル。とても景色の良い上層階のオフィスです。
「中小機構」の拠点は、全国各地に10箇所あるのですが、この日やって来た大阪の近畿本部。出迎えてくださったのは、小川陽子さんです。
彼女は中小機構の職員さん……ではなく!
海外進出の支援をされている民間企業の社長さんです。もともとは中小メーカーの国際部で働かれていたという経歴なので、現場経験が豊富なシニアアドバイザーさんなのですが、その経験豊富っぷりは記事の後半で明かされることに………
中小企業であれば、誰でも相談OK。利用料はなんと0円なのです
——今日はよろしくお願いします! 小川さんは、日々いろんな企業の海外進出のご相談に乗られたり、一緒に海外へ渡航調査に行かれたりしているんですよね。それって、たとえば私がこれから会社を立ち上げて、海外進出をしようとしたら、相談に行ってもいいんでしょうか?
小川:もちろんです!
——ひとりぼっちの会社でも……?
小川:中小企業であれば、どんな業種でも、どんな会社様でも大歓迎ですよ。
——資本金が500億円くらいあったら?
小川:それでも、従業員が100人以下だと大丈夫ですよ。従業員数が300人以下、資本金3億円以下の企業様が中小企業ですが、どちらかに当てはまればOKです。*
(*業態によっては定義が異なります)
——資本金が500億円あっても大丈夫なんですね! まぁ、ないんですけど……。では、小川さんにアドバイスをいただく場合の謝礼は? 最初からお金のことばっかり聞いちゃいますが……。
小川:無料です。
——えっ!タダ?!
小川:この役所の中で、私たちアドバイザーに助言を受ける分には0円。ずっと0円です。
——えー!なぜそんなことに! あっ、税金か……! タダというか、もともと納税したお金が戻ってきている、と考えても良い訳ですね……。
ただ、中小機構さんからは、海外リサーチをするための補助金まで出してもらえるんですよね? そんなことまでしちゃったら、税金の無駄遣いって怒られません?
小川:あ、補助金が出る対象になるのは「海外ビジネス戦略推進支援事業」に採択された企業様ですね。年間100社ぐらいの中小企業を全国で採択して、私たちアドバイザーが担当につきます。海外展開のことを徹底的に調査・実行して、渡航調査にも一緒に行きます。
——ふんふん。じゃあまずは、その…海外ビジネス戦略なんちゃら事業に、採択されなきゃいけないんですね。倍率高そう……。
小川:2〜5倍です。年度によって全然違いますね。
——全然違いますね(笑)。ちなみに、若い社長さんだと受かりやすいとか、老舗企業だと通りやすいとか……なにかカラクリはあるのでしょうか?
小川:年齢や商材は全く関係ありません。
——60歳でも、20歳でも?焼き芋屋さんでも、ITソフトウェアメーカーでも?
小川:はい。全然関係ないです。それよりも、長期的な視点に立って、単発で終わらずにやっていきたい、という方であれば通りますね。
——ちなみに、補助金はいくらまで出してもらえるんでしょう?
小川:海外に拠点を置きたい、という企業様は上限140万円まで。日本から輸出をする、という企業様は上限50万円までですね。これは現地調査の通訳料や自動車借上料、資料翻訳費用、他にもWebサイトの制作費用なんかの費用として、全体の半額までを補助金としてお支払いするんです。
海外には行かず、海外向けのWebサイト制作費用の半額(上限100万円)を支援するパターンもありますね。
——なるほど……自営業の人間にとっては、なんともリアリティのある金額ですね。あ、でもそれって、奨学金みたいに返済義務ってあります……? 毎月1万円の返済を、12年間ずっと……とか。
小川:それはないです!
——ちょっとまってください。返済義務のない140万円……?しかも専門家の指導が無料でついてくる……???
なんか話がおいしすぎませんか??!もっと倍率が高くても良い気がするのですが、ぶっちゃけ、あんまり有名じゃないですよね?
小川:宣伝が足りていなくて……(チラッ)。
藤巻(中小機構の職員さん):はい、ひとえに我々の広報力不足……。なので今回、スタートアップ界隈の方も読んでそうなmilieuさんに、取材をご依頼することになりました。
——そういうことだったんですね!
いやしかし、海外進出の手前でくじけている人は多いと思うし、相談だけなら無料なんですよね? いやぁ、知らなかった。完全に無防備・丸腰で海外攻めようとしてましたね、私……。
相手の時間を無駄にしないよう、最初にズバっとお伝えする
——現状お話を聞いていると、良いところしかない気がしているのですが、逆に「海外ビジネス戦略推進支援事業」に採択されるデメリット……ってありませんかね?
小川:デメリットもありますよ。
——あ〜、わかった! 自社製品に変なゆるキャラのロゴを絶対に入れなきゃいけなくなる? お役所仕事でありがちですよね! あれ、デザインも損ねるし、デメリットだと思います!やめましょう。
小川:違います(笑)。海外への渡航調査へ行く前に、事業計画書をすごくしっかりと立てなければいけないんです。自社の強み、弱みを棚卸しして、これなら勝てそうという事業計画にします。その計画作成に時間を取られたくない、という方は辛いと思います。
——あぁ、書類仕事ですか……私は苦手ですね……。でも逆に、そういう機会でもなきゃ、自分たちのことは見直さないですが。
小川:そうですね。この棚卸しをすることによって、見えなかったことが見えてきますし、これはメリットでもあります。ただ、スピード感や多店舗展開を最重要視される業種の方なんかは、ちょっとこの事業の枠組みとは、歩調が合わないこともありますね。
まぁビジネスそのものとして本当に厳しい時は、「今の御社には厳しいですね」と最初にお伝えします。スピード感しかり、ビジネスモデルしかりです。
——最初に!スパっと!
小川:はい。また「日本製品だから海外でも受け入れられる」と思っておられる場合も、難しいですね。他のアジアのメーカーも、品質はどんどん上がっていますし。日本製品は割高で、けっして選ばれやすいものではありません。
——ぐぬぬ……でもそれって、言いづらくないですか?
小川:いやいや、変に期待させてしまって、大切なお時間を無駄にしてはいけません。最新の海外事情としてこうですよ、といった全体像と海外進出のリスクはしっかりお伝えし、その上で冷静な自社分析を一緒に行っていきます。
この最初の目線合わせはとても重要ですから、その後長丁場をご一緒させていただくために、時にはじっくり話込むこともありますね。
あと、言いづらいことはお金です。
——ですよね。お金の話。
小川:はい。補助金はあくまで海外展開の初期フェーズをドライブさせるに過ぎません。継続的に事業化するには投資も必要となってきます。
たとえば、ちょっとしたインテリア照明なんかでも、海外の安全基準に対応させるためにはコストが予想以上にかかります。そこの全体予算を最初に理解しておかないと後々「やっぱり厳しい」となってしまっては……
——あぁ、それはもったいないですね。期待して、準備して、人員を割いて、蓋を開ければ「えっ、ここまでお金かかるの?!?!」ってなると、小さな企業には本当に痛手ですからね……。それを最初に伝えていただけるのは、厳しくもありがたいですね。
ちなみに採択された企業さんは、最初の打ち合わせから、実際の海外渡航調査まで、どれくらいの期間をかけられるんですか?
小川:短い方であれば、2ヶ月くらいで全てが終わりますね。そういう方はかなり少数派で過去に1社様しか私は経験がないですが……もうすでに事業計画があって、渡航先の国も決まっている。そこに補助金が出て、サポートをさせていただくだけなので、「あとはもう行くだけですね!」と。
——え、そんなに短いんですか。じゃあ、現状もうしっかりとした海外展開の絵が描けている会社であれば、かなり便利にこの制度を利用できますね。
小川:そうなんですよ。
——私の知人の経営者でも、中国市場リサーチをするのに単身乗り込んで、カルチャーショックを受けて帰って来たりする人が多いのですが……それを全部自腹で、フィーリングでやるよりも、サポートに入ってもらって、補助金も出してもらったほうが、実りが多そう……。
ちなみに、長くかかる企業さんだと、最初の打ち合わせから、実際の渡航調査までどれくらいかかりますかね?
小川:長くても1年なんです。この制度は、年度の中でやりとげる、というシステムになっているので。
——あ、期限があるんですね。それは逆に、間延びしなくていいですね。でも、卒業生が次の年度にやって来て、何度も何度も補助金出してもらう……みたいなのは、アリですか? 補助金の旨味を知ってしまって……的な。
小川:それはナシです(笑)。でも、ご相談だけであれば、いつでもお受けしていますよ。実際、渡航調査をした後、数年間に渡ってご相談に来られる企業様も多いです。
——おお、卒業生が相談に来られるんですね。それは、信頼関係が結ばれているってことですね……。補助金よりも、小川さんたちにアドバイスをしてもらえることにバリューを感じている企業さんが多そうですね。
「商品」「会社」「自分自身」この英語を暗記すれば、最初はOK
——実際、小川さんたちアドバイザーの方から企業さんには、どんなサポートをされるんですか? 場合によっては「日本市場だけだとヤバいとは思っているけれども、どこから手を付けていいかわからない!」という企業さんも来られるんですよね?
小川:はい。事業計画が出来上がっていて、あとは現地に行くだけの企業さまもいらっしゃいますし、一方で藁をも掴む思いで訪ねてこられる方もいらっしゃいます。
たとえば、2016年に採択させていただき、私がご一緒した京都・西陣織の老舗「西陣岡本」さんは、もともと寺社仏閣をお客様に長年お商売をされていらっしゃいました。
——西陣織ですか。高級品ですね。そういう、日本らしい商品を取り扱われる企業さんからの相談が多いのでしょうか?
小川:いえいえ。本当に様々ですよ。たとえば、システム開発・IT系ではシリコンバレーにはほぼ毎年渡航していますが、 その他、地震のひび割れ測定ソフトウエア(ロシア)、太陽電池(イタリア)、食品生産(スペイン)、洋上風車用部品(イギリス)、光ファイバー装飾衣(オランダ)、インテリア家庭用品(インド)、水素ステーション用部品(アメリカ)、医療機器(ブラジル、アメリカ)、食品工場(フィリピン、アメリカ)、建材(ドイツ、アルゼンチン)などなど、世界各国、あらゆる商材、輸出、投資、制限なく、支援させて頂いています。
——うわぁ、本当に色々なんですね……。と、話を戻しまして、西陣織の方はどのように進められたんでしょう?
小川:はい。ただ、寺社仏閣への売り上げが年々増える…ということもありませんし、新しいお客様を見つけなければいけない状況があったんです。そこで、デザイナーでもある岡本絵麻さんが、中小機構の窓口にいらっしゃいました。彼女自身は美大を卒業して西陣岡本に嫁がれた方で、営業やマーケティングの経験は皆無。でも、本当に覚悟は人一倍だったんです。
——外からその業界に魅力を感じて入ってきたらこそ感じる危機感……みたいなものもあったんでしょうね。
小川:そのようです。西陣織という素晴らしい技術を持った職人さんが、どんどん低い賃金になってしまって、そして、自分たちの世代で途切れてしまう……ということを懸念されていました。でも、アイデアとしては「まずは何か作って、パリでの展示会に出るべきでしょうか」と。
——高級品ですし、パリじゃダメなんですか? 相性は良さそうですが……。
小川:フランスには、既に西陣織は上陸してるんですよね。それに、商材特性を考えずにとにかく有名な展示会……というのもややステレオタイプな捉え方でもあります。本当のところ、西陣岡本さんの悩みを何度もお聞きしていると、海外進出がゴールという訳ではなかったんです。
海外進出をすることによってブランド価値を高めて、日本の国内市場でももっと受け入れてもらいたい……という希望があったんですね。
——いわゆる「逆輸入」ですね。
小川:はい。だから、日本人が好む国……として、北欧に。その中でもテキスタイル産業の強いフィンランドを渡航先に決めました。事前に徹底的に調査をして、フィンランドのテキスタイルメーカーさんにはほとんどにお会いしましたね。西陣織の技術を評価していただき、商談も進みました。
——え、フィンランドのほとんどのテキスタイルメーカーって、ちょっと多すぎません?
小川:実際、ほとんど訪問しましたよ。「もう一度来たときに」ということは、なかなか出来ませんから。
基本、どの渡航調査でも、1日3〜4件のアポを入れることが多いです。広い国だと車移動になりますから、ご飯をゆっくり食べる時間もないですし。毎日商談があるので、夜はその日の反省や復習をして、次の日のプレゼンに向けて準備していきます。
——ひえぇ、海外旅行気分……かと思ったら、完全にスパルタですね。大変そう……。
小川:はじめての海外出張では「ここまでする?」くらい準備していてちょうど良いんです。海外特有のリップサービスで、すごく褒められて、「いい雰囲気になって関係も作れたし、初回はこんな感じで十分!」と商談が無難に収まりそうになったりもするんですが……私はそれでは帰国後何もやり取りが始まらない「なんちゃって商談」に過ぎないといぶかる方なんですね。
——なんちゃって商談。あぁ、「とりあえず今度飲みましょう(だが絶対に飲みにすら行かない)」的な……。
小川:ですから、「エエッ、今それをここで言う?」っという核心的なことを、空気を読まずにちょっと言ってみたりするんです。
——それは、わざとですか?
小川:はい(笑)。すると、突然先方の顔色が変わるんですよね。「ノンノン、何を言ってるんだ君は(汗)!」と。何やらビジネスモデル上、知られたくなかった儲けのポイントを、見抜いたな、みたいな……。社交辞令で済ませようと思っていたのに、バレタか、みたいな……。
——ほほぅ……やっぱり初めての海外進出だと、口車に乗せられて、舞い上がっちゃって、すっごく損な契約を結んでしまう……ということも、多いみたいですしね。
小川:そうなんですよ。ですから、盛り上がっていても、手堅い部分をしっかり確認しておかないと、相手のペースやルールに巻き込まれてしまいます。そこが海外企業と商談するときのリスクですね。でもその段階を越えられれば、そこからは本音のお付き合いになります。いざ制作プロセスに入ると、日本企業とは違って、驚くほどスムーズで楽! ……という側面もありますね。
——いやぁ、小川さん、めちゃんこ心強いです。
私はまず英語コンプレックスが強すぎるので、海外でビジネスしても、本当にイエスマンになってしまいそう……。
小川:商談の場面では、ビジネス英語は重要ですね。「ちょっと話せます」「海外留学していました」という担当者がすでにいる場合も、現地調査の時は必ずは通訳さんを手配して頂きますし、ちょっと英語が話せる学生さんや元駐在員の方を通訳さん代わりに連れて行くのも、やめていただいてます。そこでコスト削減しては、結果として大きな機会損失になります。
——英語が話せるのと、英語でビジネスが出来るのは、別のレイヤーの話ですもんね……。耳がいたいです……。なんだか、私もこれから丸腰でアメリカ移住するですが、どんどん不安になってきました……。ビジネス英語って、習得するのに最速でも5年以上かかりそうですし……。
小川:あぁ、そこまでハードルを高く考えないでください! もちろん、ご自身の英語で伝えていくことも大切ですが、そこはまず「商品のこと」「会社のこと」「自身のこと」だけを丸暗記するんです。それだけで、案外なんとかなりますよ!
——ふむふむ、丸暗記。
小川:はい。まずこの3つのトピックについて、A4の用紙1枚裏表の原稿にご自身で日本語でまとめて、それをプロに翻訳してもらってください。ここも「英語の得意な娘さん」とかではなく、プロの翻訳家に依頼するのがポイントです。
——そこをケチるな、と。
小川:はい、必ず。そしてその英文を丸暗記して、スラスラ話せるようになると、現地での商談でもまずは困りません。違う話を振られても、この3つに戻します(笑)。
——なるほど、やってみます!とにかく、長文の自己紹介を丸暗記ですね。ちなみに、渡航先の企業がアラビア語だったり、スペイン語だったりした場合は?
小川:その場合も必ず、プロの通訳さんを入れますね。わかった風にならず、次のアクションが全員で共有できるように。
——あぁ……私英語の会議だと、完全に「わかってる雰囲気の顔」でやり過ごすことありますね……(汗)。ちなみに、訪問先の企業というのは、もともと中小機構さんと関連のあるところなんですか?
小川:いや、そうとは限りませんね。
訪問先は企業様と一緒に選定していきますが、例えば現地情報に詳しいメディアを運営されている企業様、ディストリビューターと呼ばれる「販売代理店」さん、自社に近しいメーカーさんや、競合に商品を入れてらっしゃる「卸」さんに話を聞きにいくこともあります。
その他、グループインタビューをセットしたり展示会の視察、大学や業界団体、お店やレストラン、不動産物件を見に行くことも。堅いところでは相手国の行政府や自治体、日本大使館もありますね。アポイント取得は、まずは企業様にご自身でトライしていただき、どうしても難しい場合のみ私たちでフォローしています。
——それは……自ら調べて、自らアポを取るくらいの気概がないと、海外では成功しない!! ということですか?
小川:その通りなんです。文化や思想の異なる方々と、ビジネスをやっていくことが、いかに難しいか。渡航前の、アポを取る段階でわかってくるんです。
最初から私たちが代行したり、全面的にサポートしすぎると、後から「自分たちだけでは再現できない」「やり方が分からない」と、常に誰かの助けが必要になってしまいます。それでは、意味がありません。
——サポートするというか、本気で向き合うためのスパルタ環境を用意する、というか……。
小川:半額まで補助金が出るとは言っても、時間はかかりますし、その間国内の通常営業にもしわ寄せが来てしまいます。つまり、社運をかけた勝負でもありますから、「2回目」というのはありえない場合もあるんです。
でも、頑張って調査して、アポを取り、英語を予習して……いざ渡航調査に行くと、現地滞在中のほんの数日間でみなさんどんどん変わっていきます。
——大人になってから、そこまで成長する機会ってあんまりないかもしれないですね……。
小川:先ほど紹介した西陣岡本さんの案件では、努力の甲斐あって、フィンランド切手にもなった著名デザイナーが西陣織でドレスを仕立てくださったんですね。それが現地メディアで紹介されたり、他のテキスタイルメーカーからも新たなオファーが来たりしています。
と同時に、日本の大手百貨店からの依頼でイタリアメーカーの高級革ハンドバックのテキスタイル部分を担い、即日予約完売……という成果にも繋がりました。
——すごい!早速成果が!!
小川:はい。ただ高級品ですから、すぐにポンポン売り上げが伸びる……というものではありません。でも今は、その経験をもとに他国のエッジの効いたメーカーさんにも売り込みをされたり、次に繋がるための営業を日々続けられたりしていらっしゃいます。もともと海外向けのWebサイトなどもなかった老舗企業さんですから、その変化は驚くほどです。
——「海外と繋がる」だけではなく、「海外と繋がったことを活かして、価値を高めていって、しっかりお金にする」のがゴールですね。
小川:そうそう、そうなんです。それに、渡航調査を経験して「やっぱりまずは日本で頑張ろうか」と、気持ちを新たにされる企業さんもいらっしゃいます。
——アジア諸国の勢いや、効率の良さを直視すると、まずは自分たちの国内での方針を見直すべきだった……ということもありそうですね。やっぱり日本企業、手間をかけすぎるところは多いですし。
海外進出を推進する理由は、いつも日本に感動しているから
——なんだか、小川さんからは、ほとばしるエネルギーを感じるのですが……。実際、ご自身の事業でもなく、アドバイザーとして、長くても1年きりのお付き合いじゃないですか。一体、どこからその熱意が……?
小川:私ですか? そうですね……。世代的な感覚かとも思うのですが、なんだかこのままでは申し訳ないな、と思っていたんです。
——申し訳なさ?
小川:塩谷さんが生まれるより少し前かとは思いますが、80年代の日本は、本当に活気がありましたよね。だから、それ以降の世代の人間は、海外に行っても、褒められてたり、受け入れてもらえたりしやすいです。
——あぁ、そうですね……。” I’m Japanese. “って言うだけで、明らかに顔色が変わったり、対応が変わったり……。
小川:でも実際、私たちの世代だけで何かを成し遂げたわけではない。こうして褒められたりするのも、上の世代の遺産ですし、これが長く続く訳ではありません。
——それも痛感しますね……。SNSなんかでは、韓国のメーカーさんのほうがよっぽど先を行ってるし、東南アジアに遊びに行っても若者の間では韓国ファッションが流行ってました。
日本は、職人的には優秀な人が多いかもしれませんが、ブランディングとしては……出る杭を打ったり、「奥ゆかしさ」をあまりにも大切にしすぎたりと、なかなか外へのアピールが足りていないのかなぁ、って感じてます。魅力的な資産はいっぱいあるのに。
小川:そうなんですよ。本当に魅力的なところが沢山あるんです。仕事ぶりもそうだし、商品も。
日本の企業は、ある程度の規模になると「経理部」って当たり前のようにあるじゃないですか。個人的な夢なのですが、私は、あれと同じように「国際部」があって欲しいんです。会社であれば経理部がある。それと同じように、当たり前のように国際的に自社の魅力を届けられていれば、国の情勢が変わっても、そうそうコケたりしません。どこでもやっていけます。
——ふむ……。でも日本って島国ですし、そこそこ人口もいるし、なかなか企業が「国際部」を立ち上げる前にも商売が成り立ってしまったりもしますが……。でも島国だからこそ、外から見ると魅力的だったりもしますしね。
小川:それは、私も毎回あらゆる国に渡航する度に感じることなんですよ。帰国するたびに、なんだここは、と感心しちゃいます。奇跡の国だなぁ……だなんて思っちゃいますね(笑)。
——私も、日本の空港のトイレの機能性や、電車のフカフカな椅子には毎回感動しちゃいますね……。
小川:いや本当、すごいですよね。
——私は小川さんみたいな、ビジネス面でサポートすることは難しいのですが……日本の技術の高いクリエイターを、SNSでの世界進出するサポートなんかをしていきたいな、と思っていて。
小川:そうですよね。SNSを整えるだけでも、海外から何倍もアクセスが増えるようにもなりますからね。
藤巻(中小機構の職員さん):塩谷さん、アメリカ移住されるんですよね? 海外のSNS事情に詳しくなったら、ぜひその知見を仕事として、中小機構にもインプットさせてください。
——え、私のような人間がレクチャーしても良いんですか?
藤巻:現場での専門知識のある方がアドバイザーになるのが、中小企業の方にとっては一番ですからね。
——いやぁ、なんだか最初の「お役所」イメージとかなりかけ離れてまいりましたね……。
小川:実のところは、最初は、お役所窓口だからと「そんなに期待していないけど……」という表情で来られる方は多いんですね。でもお話していると、途中で表情が変わってきて。
最後には「こんなことなら、もっと早く来ればよかった! 中小機構、全然知られてないから~」と言われることがあります(笑)。
——宣伝が必要ですね……(笑)。まずは今日のインタビューが広まるように頑張ります。今日はお話、ありがとうございました!
——「あ〜〜…お役所案件か〜〜……」という私の直感が、見事に打ち砕かれた今回の取材。
小川さんのお話はめちゃくちゃ面白かったのですが、ぜひご一読いただきたいのがこちらの冊子です。
デザインも読みやすくて、読み物としてもかなり面白いのですが……
小川さんだけではなく、全国10箇所の「中小機構」の拠点には、様々な個性をお持ちのアドバイザーの方がいらっしゃいます。その方々の経験やノウハウが、惜しまず書かれているこの本。これも……
小川:無料です。
……ということです。中小機構の窓口で無料配布されていますが、ネットでも全記事公開されています。
取材時はPDFで公開されていたので、中小機構の藤巻さんに「Webメディアの記事としても読めるようにしてほしいです!そのほうが読みやすいので!」とオーダーしたところ、「そうですね!確かに!」と前向きに検討していただけまして……
後日談、本当にWeb記事になりました!こちらから読めます!?
スピーディーで、頼もしい。「海外進出、どうしよう?」とお悩みの方は、ぜひ一度、全国各地にある中小機構の窓口に相談に行ってみる……というのは、非常にアリだなぁ、と思わされました。
私はまず、A4の原稿用紙・表裏1枚分で、完璧な自己紹介を喋れるようにしておきます!
小川さん、ありがとうございました!
2018年度の「海外ビジネス戦略推進支援事業」へのご応募は、昨日スタートしたばかりです。締め切りは5月7日! 概要をまとめました!じゃんっ。
ということで、この記事を読んでくださったスタートアップのみなさま。中小企業のみなみなさま。
もし御社の資本金が3億円以下、社員数が300名以下で、海外進出についてお悩みの場合は、最寄りの中小機構の窓口までご相談に行ってみる、というのはいかがでしょうか?
もちろん相談だけでもOKです!
小川さんがいらっしゃるのは大阪にある近畿本部ですが、以下の場所に窓口があるそうです!多い!
- 北海道本部(札幌市)
- 東北本部(宮城県仙台市)
- 関東本部(東京都港区)
- 中部本部(愛知県名古屋市)
- 北陸本部(石川県金沢市)
- 近畿本部(大阪府大阪市)
- 中国本部(広島県広島市)
- 四国本部(香川県高松市)
- 九州本部(福岡県福岡市)
- 沖縄事務所(那覇市)
「相談したい!」という方は、以下からお申し込みしてみてくださいね!
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また、小川さんたちアドバイザーの方々からの、より専門的なアドバイスはコチラから読むことができます! どの記事もかなりリアルな内容が掲載されているので、参考にしてみてくださいね!
Text by 塩谷舞(Twitter |Instagram)
Photo by 宇野真由子(Portfolio)
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