父が娘についた嘘。

こんにちは、塩谷舞です。

もし昨日の帰宅ラッシュの時間帯。なぜか金魚が三匹入った袋を大切そうにさげていた男性をみかけている方がいれば、それはこのお父さんだったかもしれません。

今日ここで紹介するものは、3歳の娘さんを持つお父さんの、夜のこぼれるようなツイートを集めたものです。お父さんは、娘さんにとある嘘をつきます。

お父さんが娘についたその嘘は、ただしいのか? それとも?

子どもがいない私にはちっともわかりません。この文章を読まれた方の中にはきっと「嘘なんてつかずに、現実を教えてあげるべきだよ」と思われる方も、いらっしゃると思います。

でも、わからない、嘘をつくのが正しいのかわからない、と悩むお父さんには確かな愛情があって。それは娘さんが大きくなって、現実を伝えやすい年齢になると、きっと変化する形の愛情かもしれなくて。だから、3歳の娘さんへの優しい嘘を、ここに留めておきたくて。お願いして、記事として残させてもらうことにしました。

 


 

 子どもが妻の実家で夜店にいって金魚すくいをしてきたそうで、黒いしっぽのひらひらしたのと、まだ肌色の小さな金魚をもらってきた。

妻は生き物を飼ったことがないので渋々だったが、子どもはおおよろこび。

俺としても生き物を飼うくらい学ぶことの多い教育はないと思うので、さっそくペットショップで金魚飼育セットや水草を買い、準備万端整えた。

子どもをお世話係に任命し、ごはんあげるんだよ、というと嬉しそうにうなづいた。

きのうは元気だったが今朝は気配がない。子どもはひとつかみエサをあげると、金魚さん、みえないねーとつぶやいた。

隙を見て水草をよけると、金魚は沈んで死んでいた。

子どもはそれに気づいていない。俺もそのことは言わずにいた。

金魚は沈んで死んでいる。


俺は会社に行ってから、金魚を売っている店を調べ、帰りに寄ってよく似た金魚を買った。そしていま帰りの電車に乗っている。今日も子どもは嫁の実家で、まだ帰ってきていない。

俺は死んだ金魚を掬ってどこかに埋め、新しい金魚をさりげなく水槽に入れておくつもりなのだ。

しかし子どもは気づくだろうか。似てるといってもだいぶちがう。

気づいた時には、なんて言えばいいのだろう。金魚が死んだことを告げないのは欺瞞なのか。せめてあと数日生きていてくれたら、こんなに迷うことはなかっただろう。だがその死はあまりにも早すぎた。

はじめて飼う生き物が、あっけなく死んでしまうことは、子どもにどんな影響があるのだろうか。

わからないまま、とにかく俺は金魚を買ってきた。しかも三匹。

数が増えていたら、気が取られて気づかないのではないか、そんなことを思った。

そして私は今三匹の金魚の入った袋を手にして横須賀線で家路についている。

子どもが帰ってくる前に、まずは今朝死んでいた金魚を埋葬しなければいけないのだが、果たしてそれが正しい行動なのかどうか、まったくわからない。

子どもには正直に告げるべきなのか、あるいはしれっと何もなかったように振る舞うべきなのか。

俺は今、自分自身の生き方を問われているような気がしてならない。なんというか、誤魔化しばかりの人生ではなかったのか。ま、そんなに大事にとらえる必要もないのだろう。

しかし子どもがはじめて体験する身近な生き物の死を、どのように対処したらよいのか、さっぱりわからない。

あの夜店の金魚は、彼女がはじめてお世話する命であったのだ。もちろん、新しい金魚たちのことは面倒をみてもらう。みてもらうけれども、死んだ金魚のことをどのように伝えたらよいのだろう。

新しい金魚は酸素の一杯つまったビニール袋のなかで、静かに呼吸をしている。

頼む、君たちはとにかく元気で生き延びてくれ。

 

まもなく横須賀線は鎌倉に着く。俺はすぐに家に帰って、死んだ金魚の埋葬の手配をしなければならない。

 

 

 

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