地球最高にクレイジーで贅沢なパトロン、前澤友作によるアートプロジェクト。 #dearMoon

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混乱と興奮と喜び、あとはお恥ずかしながら山のような嫉妬が同時に吹き出てきて、手が震えてしまった。

 

 

イーロンマスクが率いるSpaceXが初の民間月旅行客と契約。それがZOZOの前澤友作氏であることが明らかになった。

「BFR」による月周回イメージ

とんでもないお金の使い方をされる人であり、社長業ながらも前に出ることを厭わない人でもあるから、最初噂になった時には「あぁ、月旅行に行くのは前澤さんなのかぁ。いかにもハマり役で……勇敢だなぁ」くらいに思っていた。

 

でもSpaceXのYouTube LIVEを通して彼のプレゼンテーションを聞いた瞬間に度肝を抜かれたし、「あぁ確かにそうするよなぁ、彼はアートが好きなのだから」と涙が流れた。

彼にとって、リッチな月への旅は目的ではなく、芸術を生み出すための手段に過ぎなかった。

 

パブロ・ピカソが月を間近に見ていたら、どんな絵を描いたんだろう。
ジョン・レノンが地球を丸く見ていたら、どんな曲を書いたんだろう。
彼らが宇宙に行っていたら、今の世界はどうなっていたんだろう。

私たちには、想像力と創造力があります。
まだ一度も見たことのないような夢を見ることができるかもしれない。
歌ったことのないような歌が歌えるかもしれない。
描いたことのないような絵が描けるかもしれない。

このプロジェクトが皆さまの夢を拡げるきっかけになることを願っています。
地球を代表するアーティストと共に、皆さまより少しだけお先に月に行ってきます。

#dearMoonホスト・キュレーターとして、このようなチャンスに恵まれたことを大変誇りに思います。

BFRでの月周回飛行プログラムを提供くださるイーロン・マスクさんとSpaceX社の皆さま、そしていつも僕を支えてくださる全ての関係者の皆さま、本当にありがとうございます。

このプロジェクト必ず成功させます。
楽しみにしていてください!

——前澤友作

#dearMoon と名付けられたそのプロジェクトは、前澤氏がアーティストを6〜8名、月周回旅行に連れて行き、アーティストはそこで受けたインスピレーションを元に新たな芸術作品を生み出す、というもの。

https://dearmoon.earth/ より

リフトオフは2023年。面白いことに、まるでありがちな公募展かのように、「作品制作期間」と「作品公開期間」が既に設定されていのだが、その展覧会の開催場所は“on Earth”だ。


 

いつの時代も、巨大な力を持った国や資産家たちは、クライアントやパトロンとして、アート、芸術文化を生み出す力も持っていた。

古くは紀元前2580〜60年頃に建設されたクフ王のピラミッドしかり、様々な宗教を大衆に伝えた宗教画や建築しかり。言語が統一されていない、または読み書きが浸透していない場所であっても、ノンバーバルな表現を通して権力や思想を伝え、人の心に届けるためのものとして偉大な芸術は生み出されていた。

しかし権力がある程度分散し、人々がSNSやささやかな日常の中に「小さな楽しみ」を獲得した今、「人を驚かすような巨大な芸術」のニーズは縮小している。アートや芸術領域も様々なジャンルに細分化され、「人類共通の関心事」はすっかりなくなってしまったように感じた。それはそれで、幸せなことなのだけれども。

 

しかし、民間人の月周回旅行、というのは「人類初」の出来事であり、サイエンスに疎い私であってもこの夢のチケットを命を賭けて掴むのが誰であるのか。そしてどのような使い方をするのか——というのは、かなり気になっていた。それが、前澤氏だったのだ。

幸運なことにこのプロジェクトは「金持ちの贅沢旅行」に終わることはなさそうだ。いや、嫌味な言い方をすれば、これは「金持ちの最高に贅沢な旅行」である。

だって、尊敬するアーティストたちと共に月に行き、そこで生まれるインスピレーションを、最前席で味わうことが出来るのだから。アートファンにとって、これ以上に贅沢なことはあるだろうか。

 

ちなみにこの「月旅行」は、月面着陸ではなく月をぐるりと周回する形だ。つまり選ばれたアーティストたちが体験できることをおおざっぱに列挙するならば、無重力空間での生活と、球体の月や地球を肉眼で見ることの二つだろう。

しかしそれと同等、もしかしたらそれ以上に価値があるのでは……と思わされるのが、このプロジェクトが「6〜8人の芸術家」で構成されるということ。

月周回軌道イメージ

世界中の屈指の芸術家やクリエイター、アーティストたちが、シャトルの中で長い時間を共にする。そこで彼らは、たくさんの話をするだろう。たくさんの夢を語るだろう。関係性を深めていくのだろう。その贅沢な日々こそが、この「月旅行」最大の魅力かもしれない。

 

 


前澤氏はちゃっかり、スピーチの冒頭で自社のPRも挟んでいた。これは個人プロジェクトということではあるが、しかしながらZOZOの知名度は爆発的に上昇するだろう。つまりこれは前澤友作という王様による、巨大ピラミッド建設プロジェクトなのかもしれない。今の地球上で、これ以上に広告効果があり、権力を示すことが出来るPR方法があるだろうか?

 

しかし、本プロジェクトにおいて、選抜された世界屈指のアーティストたちはもちろん想像、および創造の自由を許されているだろうし、彼らはピラミッド建設のための労働者ではない。

まだ何が生まれるかわからないものに、彼は言葉通り、命と金を賭けるのだ。クレイジーすぎる。こんなにクールな「PR」案件なら、受けて立ちたいというアーティストは幾人もいるだろう。


 

あまりにも規模の大きな話に、震えながらタイピングしている。私が住んでいるニューヨークは夜の11時が過ぎたところ。

個人的な話をすれば、私はニューヨークという可能性が渦巻く都市で、日本人アーティストやクリエイターたちのレジデンスをサポートしたいと考えていた。

ちょうど昨日まで、19歳の日本人ファッションデザイナーが私のアパートメントに半月の間ホームステイしていて、彼女が日々キラキラした目でニューヨークのファッションシーンを吸収していく姿に、こちらまで楽しくなってしまったのだ。

世の中にはいくつかの留学のための助成金があるけれども、不真面目な私にとっては、それらはどうも書類が多くて大変そうに見えてしまう。もっとネットをフル活用した、今の時代らしいレジデンスプログラムを作れば、日本のアーティストやクリエイターたちに何かの「きっかけ」を提供できるのではないか……(あわよくば、名作が生まれるその現場に立ち会えるのではないか)と目下思案中だった。

 

しかし、「一緒に月に行きましょう」と言っている人がいる今の時代で、本当に私のやりたいことは時代に合ってるのか?頭をぶん殴られた気分だ。トップクリエイターになるためにニューヨーク留学…という価値観はもう、前時代的かもしれない。正直に言えば、めっちゃ悔しい。だって今日のテクノロジーはもう、私たちを月に運ぶ準備が出来ているのだから。そりゃあそれが、パトロンとして一番クールな方法だ。

 

未来の美術の教科書には、間違いなくこの出来事は”Yusaku Maezawa”の名前と共に記載されるだろう。そこには、一体どんな作品の画像が載るのだろうか! いわゆる「美術」という領域のものになるかは全くわからないが、無重力で踊るバレエダンサーの姿が観たいという声もあって、私たちの想像はグルグル回り始めたのだ。

 

 

もちろん、今回の宇宙旅行は「命ある状況で地球に帰る」とは保証されていないのだろう。彼はそれでも、大切なアーティストと共に、宇宙に行くことを選んだのだ。

もしこれが2050年ごろで、民間人月周回旅行が「普通」になっていた時に実施されたのであれば、それはもう私たちにとって「歴史的快挙」と言えないかもしれない。

その人の功績は、冒したリスクの大きさに比例する。だからと言って「さぁリスクを冒しましょう!」と、簡単に呼びかけることは出来ないものだ。


 

 

#dearMoon のエキシビションは、遅くとも2029年までに、地球のどこかで開催される。

私たちは残念ながら、生きている間に宇宙人には会えないだろう。しかし幸運なことに、偉大な芸術を目の当たりにすることが出来る。その芸術は、私たちの未来への想像力を豊かにし、未来の人類や宇宙人たちに「こんな時代もあったのか」と知らせるものになるかもしれない。

 

これがテクノロジーと芸術に恵まれた時代を生きるということなのか、と嬉しく思う。

 

 

Text by Mai SHIOTANI(@ciotan
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